万川集海 第12回:長いものには巻かれろ--テープのお話 - (page 2)

渡邊輝江(日本IBM)

2007-04-05 08:00

親分: データを保管する媒体として、未だにテープは一番良く使われているものなんだ。理由は、大容量、高速データ転送、安価の3つだ。つまり、沢山のデータを安く記録できる上に、データの読み書きは意外に速いんだ。銀行は沢山のデータを扱うだろう。お前ぇらだって、今じゃスッカラカンかもしれねぇが、むか〜しは銀行に口座作って泣けなしの金を預けたろう? あのデータはいつまでも残ってなくちゃなんねぇんだ。だってお前ぇ、自分のデータが消えるってこたぁ、自分の金がどっか行っちまうって話だ。そんなバカな話はあるめぇ。お前ぇらが預けた小銭のデータが集まって、銀行には膨大なデータが蓄積されているだ。それをずーっと保管しなくちゃなんねぇ。それが銀行の信用ってもんよ。それにはテープってのがうってつけって事よ。銀行にとってデータはカネに勝るとも劣らねぇ大事なもんなんだ。

子分A: さすが親分、学ある! ってこたぁコレを盗んだらカネになるってことですかい?

親分: そういうこった。これを頂戴してカネにしちまうか。何せ、テープはコンパクトな上に沢山のデータが入っていて、しかも持ち運べるときてるからな。

子分B: でも、このテープ、うちのビデオテープとも音楽カセットテープとも、ちょっと見た目が違いますぜ。

テープは続くよ、どこまでも

 親分は、「これはLTO(Linear Tape-Open)という規格のテープだな」と自慢そうに答え、説明を続けた。

親分: テープに関して少し教えてやろう。磁気テープの記録の仕方にはヘリカルスキャン方式とリニア方式ってぇのがある。ヘリカルスキャン方式は、テープの走る向きに対してヘッドを斜めに傾けてデータを記録するやり方で、お前ぇが使ってるビデオテープもこのやり方さ。高密度な記録ができるが、テープをヘッドに巻き付けて読み書きするんで、ゴミに弱くて傷みやすいと言われている。一方、リニア方式はテープの走る方向に対して直線的にデータを記録する。このLTOやオーディオ用のカセットテープなどに採用されているやり方で、高速な読み書きができて、おまけにヘリカルと比較して構造が単純で汚れやキズにも強いんだ。リニア方式には沢山の規格があって、カセットテープとこのLTOは全く規格が違う。だから残念だがお前ぇの家のカセットデッキじゃこれは再生できねぇよ。

子分A: そうなんですかい。

親分: あぁ。銀行は沢山のデータを扱うから、沢山のデータを詰め込めるLTOが使われているんだな。それに最近は色んな法律があってよ、企業はデータを大量に長い間保存しなきゃいけねぇから、容量あたりの単価が安いテープは魅力的なんだ。おまけに、テープは一杯になったら次のに交換さえすりゃ続けて書けるから、データが沢山あっても便利だってぇ寸法さ。テープは続くよ〜♪ってことよ。

子分B: 親分! そんならあっしらも、これからはテープ専門でいきましょうかい。

親分: そうだな。世の中も情報化社会だからな。ハッハッハッ!

 親分が長々とウンチクを自慢げに披露し、子分達がそれを真剣に聞き入っている間に、一味は通報を受けた警官隊にグルっと囲まれ、あえなくお縄となる。銀行の大事な資産は救われたのだった。銀行強盗一味も長いものには巻かれろで素直に御用となり一件落着。親分のウンチク話はその後刑務所でも続けられるのだが、その話はまたの機会としよう。

 ところで被害に遭いそうだったこの銀行のテープだが、最新の暗号化機能付きドライブを使ってキッチリ暗号化されていたため、例え盗まれたとしても一味にはデータを読むことさえ出来なかったことを、彼らは知る由もない。

長いものには巻かれろ - 渡邊 輝江
第10回筆者紹介長いものには巻かれろ

渡邊 輝江 (わたなべ てるえ)
日本IBM 大和システム開発研究所 テープシステムズ開発 ソフトウェア開発エンジニア テクニカルマスター
職務:テープドライブの開発
一言:自分も数年前にこのテープドライブの開発に加わるときには、「テープですか?」と疑問に思ったのが事実です。でも、始めてみると意外と奥が深くて、これからもしばらくテープは頑張って縁の下の力持ちを続けていくのではと思っています。日常では他のメディアに押し出されてしまった感のあるテープですが、意外にもまだまだ伸び盛りであることを少しでもわかっていただけたらと思ってこのコラムを書きました。長年の趣味がサッカー観戦で、まだまだ先(?)の話ですが退職金をつぎ込んで4年に一度、ワールドカップ観戦の旅に出る第二の人生を楽しみに、日々テープを回して開発に励んでいます。

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