企業システムの歴史の中で、「データ」「ロジック(アプリケーション)」「ユーザーインターフェース」を、どのように配置するかについては、さまざまな試みが行われてきた。
ホストコンピュータに、それぞれのユーザーが端末で接続し、すべてのデータとロジックをホスト側で処理する「集中」の時代。安価なPCが各ユーザーに行き渡り、ロジックをサーバ側とクライアント側で分担して処理をするクライアント/サーバの時代。ウェブブラウザを標準的なユーザーインターフェースとするウェブアプリケーション主流の時代においても、ロジックをサーバ側とクライアント側にどのように配分して処理を行わせるかについての試みは引き続き行われている。
そのトレンドは、クライアントPCの処理能力、サーバマシンの処理能力、利用できるネットワーク帯域、ストレージの性能やコスト、それに関連したユーザーの使い勝手、管理コストなどのさまざまな要因によって変遷をとげてきた。
「シンクライアント」と呼ばれる企業システムのアーキテクチャは、企業に1人1台のPCが行き渡り始め、その処理能力を有効に活用できるよう設計されたクライアント/サーバアーキテクチャが全盛の時代に現れ、関心を集めた。オラクルが提唱した「Network Computer(NC)」や、サン・マイクロシステムズによる「Java Station」などがそのコンセプトを具現化したものだった。
これら、初期のシンクライアントに共通していたのは、ほとんどの処理とデータの保管をサーバ側で行うという点だ。端末側にはハードディスクがなく、サーバに接続してユーザーインターフェースを提供するためのネットワーク機能と最低限の処理機能のみが装備されていた。
当時のシンクライアントは、高機能ではあるが高価で、台数が増えることによって管理の手間が増大していくWindows PCに対するアンチテーゼでもあった。シンクライアント陣営は「端末の安さとコンパクトさ」「管理コスト低減によるTCOの削減」を前面に押し出して普及を図ろうとした。
しかし、現状を見れば分かるとおり、初期のシンクライアントが企業システムを席巻することはなかった。その理由としては、当時の企業におけるネットワーク環境やサーバスペックが、シンクライアントシステムを快適に運用するためには不十分だったこと、業務に利用できるアプリケーションの数が圧倒的に不足していたことなどが挙げられる。そうしているうちにPCの価格性能比は急速に向上し、価格面での優位も失われてしまう。