雑誌の付録CDなどには、無償のVMware PlayerやXenが含まれていることが多い。その際には、ホストOSタイプのVMware、ハイパーバイザータイプのXenという分類で解説されることが多いためか、VMwareはホストOSタイプの製品というイメージが強いかもしれない。とはいえ、現状、同社のビジネスの中心は、VMware ESX ServerやVMware Infrastructureなどのハイパーバイザー型製品にシフトしている。
もう1つVMwareの面白い取り組みに、「Virtual Appliance Marketplace」というものがある。VMwareのパートナー企業が、VMwareの仮想マシンで動くようにあらかじめセットアップした製品のイメージを公開しているのだ。Oracle DatabaseやMicrosoft SQL Serverなどすでに400種類以上のイメージがダウンロードできるようになっている。これもある種豊富なラインナップの1つに数えていい。
サーバ仮想化で可用性の向上
サーバ仮想化というと、真っ先に思い浮かぶのは増えすぎたサーバの統合による効率化という目的だろう。これに加え、VMware Infrastructureの登場で、サーバ仮想化の用途にシステムの可用性の向上が加わったともいえる。
VMware Infrastructureには、可用性を高めるための機能が数多く備わっている。たとえば、VMware HAは、仮想化環境内でフェイルオーバー機能を提供する。サーバ障害を自動検出し、仮想化されているリソースプールにある別の物理サーバで、ゲストOSを自動再開するのだ。また、VMware Distributed Resource Schedulerは、仮想化されたリソースを動的に割り当て、負荷に応じてバランシングを行うことができる。月末の会計の締め処理で負荷が高まるアプリケーションを仮想マシンで動かすなど、高負荷になる時だけ動的に仮想メモリや仮想CPUを追加し、仮想マシンの性能を高めることができるのだ。
VMotionは、オンラインのまま物理サーバ間で仮想マシンを移動可能とする。この機能は用途が広い。仮想化を実現している物理サーバの性能が足りなくなった場合、アプリケーションを稼働させたまま性能に余裕のあるサーバに移動することができる。また、サーバのメンテナンスで計画停止を行う際にも、アプリケーションを止めることなく一時的に別のサーバに移動し、メンテナンス終了後に戻すことも可能だ。これを応用して、遠隔地のサーバ間でディザスタリカバリの構成を構築することもできる。
VMwareが2006年に2500の顧客に対し利用実態の調査をした際には、87%がシステムのコンソリデーションに、66%がディザスタリカバリ用途にVMwareを利用しているとの回答があった。また50%が、すでにVMotionの機能を活用しているとのことだ。VMwareをエンタープライズ用途で利用しているユーザーの多くが、システムの統合による効率化だけでなく、システムの可用性を高めるためにサーバ仮想化の技術を利用していることになる。
VMotionに準ずる機能は、「Xen Enterprise」でも実装されている。これから登場する「Windows Virtualization」でも同機能が搭載される予定があり(最初のリリースではこの機能が搭載されないと発表されているが)、各社が追随している状況だ。エンタープライズでのサーバ仮想化の領域では、仮想環境の性能面の競争はもちろんだが、むしろVMware Infrastructureで提供しているような、仮想化環境をいかに安全にし、信頼性と可用性を高めつつ利用できるかの争いになってきているようだ。
当初はテクノロジー先行で技術者の興味、趣味的な色の強かったVMwareによるサーバ仮想化は、EMCによる買収でビジネス市場にアプローチした。そして今回のIPOで、エンタープライズコンピューティングの世界で大きく羽ばたこうとしている。Citrix SystemsによるXenSourceの買収などもあり、VMwareを追い上げる体制も強化されている状況で市場をリードをし続けるには、さらなるイノベーションが必要となるだろう。