Forrester Researchの主席アナリストKerry Bodine氏は、カスタマーエクスペリエンス(顧客体験)についての調査を担当している。同氏の担当する数々の調査の中から、今回は2007年8月に発表した「オンラインで望ましいカスタマーエクスペリエンスとは」というレポートについて聞いた。
これまでのカスタマーエクスペリエンス調査においてBodine氏は、サイトがどれだけユーザーに価値を提供できるか(Usefulness)、また、いかに使いやすいか(Usability)を中心に調査したというが、「こうした指標だけでは物足りなさを感じた。カスタマーエクスペリエンスの新たな指標として、いかに魅力があるか(Desirable)も考慮すべきだ」と考え、今回の調査はその重要性について説いている。
サイトの魅力の重要性についてBodine氏は、「人はみな感情を持っており、感情に訴えられるサイトが提供できることは大きな強みになる」と話す。
Bodine氏は、ウェブの果たす役割が変わってきていることを指摘する。インターネットの初期は、ウェブといえば一部の人間が個人サイトを作って情報発信したり、ゲームをしたりといった使われ方が中心だった。それが今では、企業が自社サイトを持つことが当たり前となり、物品の販売をすることも日常的に行われるようになった。また、インターネットでビデオを閲覧する機会が増えたほか、ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)の流行により、インターネット上にて人々が集まる場所ができた。さらには、FlashやAjaxなどといった技術により、視覚的にインパクトを与えるリッチコンテンツが提供できるのみならず、使い勝手も良くなった。
こうしたインターネットの変化に伴い、「ユーザーはテレビを見る時間が減り、インターネットを見る時間が長くなった」とBodine氏。このことは、「娯楽のチャンネルが変化しつつあることを意味する」とBodine氏は述べ、「ユーザーはインターネットに娯楽を求めているのだ」と説明した。
今回の調査においてBodine氏は、魅力的なサイトを構成する方法を3つ提案している。まず、1)ユーザーの興味を引くコンテンツと機能性を備えること、2)見た目にも美しいサイトを作ること、3)ゲームデザインの要素を加えることだ。
魅力あるコンテンツと機能性を備えたサイトの例としてBodine氏は、Encyclopedia of Life(生物百科事典)を挙げた。このサイトでは、ユーザーの知識レベルを選ぶことができ、1つの項目でもレベルによって違った内容を表示する。例えば、レベルを小学生レベルに合わせると、誰にでもわかる基礎的な表現でその生物について説明し、生物学者レベルに合わせると専門用語を使った説明文を出すといった具合だ。このように「ユーザーによってカスタマイズできることはとても大切だ」とBodine氏は話す。
見た目を美しくするには、リッチメディアをはじめとする巧妙なグラフィックデザインを使うことはもちろんのこと、シンプルでむしろ「デザインされていない」と思えるようなサイトも有効だとBodine氏。Googleのトップページがシンプルなのは有名だが、SNSサイトのMySpaceでも、ベースはシンプルにしておき、ユーザーが自らの好みでデザインできるような自由度を与えている。
ゲームデザインの要素を加えるのは、米国のインターネットユーザーの半数がオンラインゲームを利用しているということから、ゲーム好きのユーザーにアピールできるという考えだ。完全なゲームでなくとも、サイトに少し遊びの要素を入れるだけでよい。また、挑戦して何らかのごほうびがあるとユーザーの楽しみも増える。Bodine氏はその例として、NikeのトレーニングシューズとAppleのiPodとの組み合わせを挙げた。これは、ジョギングの結果をiPodで計測してウェブで管理し、他のランナーと比べることができるというシステムだ。
Bodine氏は、「ユーザーはそれぞれ文化や趣味も違い、求めているものも違っている。ターゲットを定めて何を求めているかを理解し、そのユーザーに合ったサイトを提供することが大切だ」と述べる。同氏は、顧客のニーズを基に、想定したターゲットの仮想的な人物を作り上げ、「Persona(ペルソナ)」としてサイトに登場させてユーザーにアピールする方法が効果的なデザインツールとなりつつあることを指摘した。
また一方で、最初からターゲットを定めるのではなく、幅広いユーザーにアピールできるよう、「カスタマイズ機能を充実させる方法も有効」と述べた。