早期発見のためにもカウンセリングを
アファリスでは、こうした企業の対策を支援するためのカウンセリングサービスを提供しているが、同社 取締役CTOの臼井雄平氏は、「EAP(Employee Assistance Program:従業員支援プログラム)でのメンタルヘルス対策は、通常希望者のみを対象にカウンセリングを行うケースが多いが、15分から20分程度のカウンセリングを全社員に実施することで、潜在的な患者も把握できる。自分では問題がないと思っていても、本格的なカウンセリングや治療が必要だと思われる人も多い」と指摘する。早期発見のためにも、健康診断と同じような全社員に対するカウンセリングを臼井氏は勧めている。
栗原氏も早期発見の重要さを強調しており、そのためにも支援を得る手段を多様化すべきだと強調する。「例えば、メールのカウンセリングだけで回復した人もいる。コミュニケーションの手段はさまざまで、窓口も増えてきているのだから、患者にとってなるべく抵抗感の少ないアクセス手段を設け、セーフティーネットを多様化させるべきだ」(栗原氏)
ただ、企業がこうした支援策を準備しても、自主的に心の健康診断を受ける人はどの程度いるのだろうか。日本労働組合総連合会が2004年に実施した「連合生活アンケート調査報告」によると、「仕事上精神的なストレスを感じることがある」と回答した人は、合計77.5%にのぼったが(「常に感じている」18.4%、「感じることが多い」21.8%、「時々感じている」37.3%)、ストレスを感じている人に「メンタルヘルスに関する専門相談機関に相談に行ってみようと思うか」と質問したところ、「思う」と回答した人は13.1%にとどまった。「常にストレスを感じている」と答えた人でも、専門相談機関に相談しようと思う人は25.4%で、相談しようと思わない人(41.4%)を大幅に下回っている。
栗原氏は、「アメリカなどでは精神的なカウンセリングを受ける習慣もあるが、日本人はまだこうしたカウンセリングに対し、抵抗感を示しているようだ」と話す。しかし、「多くの企業が窓口を設け、匿名で相談できる環境を整えているケースが多いので、壁を乗り越えてぜひカウンセリングを受けてほしい」と訴えている。
心の病は、症状も原因も人それぞれで、発見するのも難しい。しかし、早期発見は病状の悪化を防ぐだけでなく、回復までの時間短縮にもつながる。こころの会の高橋氏も「自分は大丈夫だと思っている人ほど回復が大変だ。また、IT系技術者の人は仕事熱心で、病状が進行してから医者にかかる人も多いため、回復に時間がかかる」と指摘している。
前回の取材で話しを聞いた技術者3名は、みな症状が悪化して初めて通院し、長期間治療を続けている。初期段階で適切な治療を行わなかった中井さんは、「病状がひどくなるまで我慢して仕事を続けないほうがいい。その前に休職するなり、対策を考えるべきだ」と、自らの体験談を元に語った。