あなたも「コンピュータの専門家」という言葉から連想されるステレオタイプなイメージをご存知のことだろう。極めて聡明であるものの、内向的で少し軟弱(他に言いようがない)というものだ。もちろん全員がそうであるというわけではない--しかし、IT分野に従事する人の多くは、護身術の訓練を受けたことがないということも事実だろう。われわれは、自らの身を守ることよりも、ネットワークを守ることに注力している。このため、自らの仕事に熱中するあまり、身の周りで起こっていることに気が付かないということもあり得るのだ。
われわれの仕事の性格上、サーバにパッチを当てるために、あるいは翌日の始業時間までに電子メールを復旧させるために、他の人々が帰宅した後も夜遅くまで仕事をしているということが多いはずだ。その結果、睡眠不足と極度の疲労に襲われ、周囲の状況に注意を払っていない状態で、午前2時に暗い駐車場を歩くこともあるかもしれない。そのような人は、獲物を探している犯罪者から見ると格好の標的となるはずだ。
(米司法局による最新の統計では)2006年に発生した暴力事件や窃盗事件はおよそ2500万件に達している。このことは、12歳以上の人間1000人当たり24.6人が何らかの事件の被害者になったということを意味している。自分は男性だから関係ないなどと思ってはいけない。強盗は、肉体的な優位性を活かせるという理由で女性を狙う傾向にあるかもしれないが、全体的に見た場合、女性よりも男性の方が凶悪犯罪に巻き込まれることが多いのである。つまり、あなたの身にも危険が降りかかってくるおそれがあるのだ。
私はIT業界に身を投じる前に警察官として働き、警察学校で護身術の指導者を務めた経験もあるため、IT部門にいる私の同僚の多くが、危険に対して無頓着な行動をとることにしばしば驚かされる(そして心配になる)のである。本記事では、犯罪に巻き込まれる危険性を減らすうえで役に立つティップスを提供している--これらのティップスは、いたずらに不安をあおるようなものではなく、時間をかけて武術の達人になる必要性を説くものでもない。
#1:注意を払おう!
強盗やその他の犯罪に巻き込まれないようにするための最初の、そして最も重要なステップは、異変に気付ける心理状態を保つようにするということである。これは、常に身の周りに注意を払って状況を把握するということを意味している。こういったことは、リスクの高い環境(夜遅くまで働いている時や、夜間に1人で歩いている時など)に身を置いている場合には特に重要である。
射撃術や安全確保、危機管理の心構えについての第一人者として警察関係者の間で名を知られている故Jeff Cooper大佐は、危険を察知するための心理状態をカラーコードで表すシステムを作り上げた。このシステムでは、「ホワイト」(心構えなし)という状態から「ブラック」(命懸けで戦っている)という状態にまで区分している。多くの人は大半の時間を「ホワイト」な状態で過ごしている。これは危険な状況が発生しても、それを回避するための時間がないこともしばしば起こり得るという状態である。ここで重要なことは、「イエロー」の状態、すなわちリラックスしながらも身の周りで起こっていることすべてを認識している状態で日常生活を送れるようになることである。Cooper氏のカラーコードシステムについての詳細はhttp://www.self-defense-mind-body-spirit.com/awareness.html(英語)を参照してほしい。
こういった心構えを持つように努力していれば、しばらくするとそれが自然に行動に出るようになる。例えば、車に乗り込む前に後部座席をチェックしたり、玄関に至るまでの道のどこかに犯罪者が潜んでいる可能性に注意を払いながら歩いたり、後をつけてきている車がいることに気付くといったことが無意識にできるようになるわけだ。そしてこういったことは、暴漢の襲撃のみならず、事故や自然災害、その他の危険な状況を切り抜けるための鍵ともなり得るのである。
#2:万一に備えておく
身の周りの状況に注意を払い、何かがおかしいということに早期に気付くことができるようになったのであれば、襲われたり、危険な状況に置かれたりした場合にどのような行動をとればよいのかをあらかじめ考えておく必要がある。私は護身術の指導を行う際、こういったことを「if-then思考」と呼んでいた。これは具体的には、危険な目に遭う可能性が高い場所を見極め、特定の危険が現実のものとなった時にとる行動を前もって考えておくといったことである。
例えば飛行機に搭乗した際には、非常出口のある場所や酸素マスクの取り扱い方法を確認しておくべきである。あるいは夜遅くまで1人で残業する際には、オフィスの入っているビルの勝手を知っておき、隠れられそうな場所や脱出ルート、鍵のかかっているドアとかかっていないドア、(簡単に入ることのできる窓などのない)安全な部屋に立て籠もる方法などを把握しておくべきである。また、暗い駐車場や、人けのない駐車場を歩く必要がある際には、駐車中のバンや柱の陰から不審人物が突然現れ、襲われそうになった時にどうするのかを考えておくべきである。
万一の際の行動を考えておくということは、先手を打っておくということでもある。車に戻るのが夜になりそうだという時には、可能な限り照明のある明るい場所に駐車するようにすべきである。車のキーはオフィスを出る前に手に持ち、車に向かう途中や車の前でキーを探さなくても済むようにしておくべきである。
ある状況に即した行動を考えておく場合、その行動はあなたのトレーニング経験やスキル、哲学、その際に利用できるものによって変わってくる。しかしここでのポイントは、万一の時に備えた行動を考えておけば、いざという時に車のヘッドライトに照らされた鹿のように立ちすくみ、やすやすと暴漢に主導権を握られることなく、より迅速に行動できるということである。