スクウェア・エニックスはテクモに対し、友好的公開買い付けを提案したことを明らかにした。その狙いはどこにあるのか、8月29日に東京都内で開かれた記者会見において、スクウェア・エニックス代表取締役社長の和田洋一氏が語った。
和田氏はまず、日本のゲーム会社が世界で戦っていく上で、国内企業が「ある程度深く手を組みながら世界展開していったほうがいい」と持論を展開。スクウェアとエニックスが2003年に合併したのもこの考えが元にあったとし、「昔から一貫した方針」と説明。その上で、テクモ代表取締役社長の安田善巳氏(9月1日付けで辞任予定)とは「ゲーム産業が世界的に発展する上で日本企業はどう振る舞うべきかを議論し、意気投合してきた。思想の一致を見いだした」として、両社が近い考えの下にあったと話す。
和田氏は創業家の一族でもある代表取締役会長の柿原康晴氏(9月1日より代表取締役社長を兼任予定)に対して、5月ごろから「面談し、グループとして一緒にやっていけないかという話をしていた」という。ただ、2008年に入ってから、テクモの人気タイトル「DEAD OR ALIVE」などのプロデューサーであった板垣伴信氏が、成功報酬が未払いであることなどを理由にテクモを提訴。さらに労働組合の役員が、未払い残業代の支払いを求めて同社を告訴するなど、テクモ社内には混乱が生じていた。
安田氏が9月1日付けで代表取締役社長を辞任することで、取締役会の常任メンバーが柿原氏1名になることから、「これまで話してきたことがどうなるのかと不安になった」(和田氏)とし、今回の公開買い付けの提案に踏み切ったのだという。
「『確かにそうだよね』というレベルから、意志決定のフェーズに入りましょう、という段階。取締役会として議論して欲しいと伝えた」(和田氏)。柿原氏に対しては8月28日に、提案書を書面で手渡したという。
スクウェア・エニックスがテクモを評価する点は大きく2つ。1つは家庭用ゲームタイトルの売上の7割を占めるという海外販売力の高さ、もう1つはDEAD OR ALIVEシリーズの開発チーム「Team NINJA」をはじめとしたクリエイター陣の存在だ。
特にゲーム制作の要となるクリエイター陣が、社内の混乱で崩壊するのを食い止めたいという考えが和田氏にはあるようだ。「クリエイティブコンテンツは1人の天才が作るように見えるが、ゲームは完全にチームで作るもの。チームの一部が崩れれば全部が崩れる。いかに保全するかが鍵になる」とした上で、「ものを作る上では、方向性を提示することが重要だ。チームは恐ろしい勢いで劣化する。(テクモには)何らかの方向性を出して欲しいし、こちらからも提案したかった」(和田氏)とした。
スクウェア・エニックスは10月に持株会社制に移行する。テクモを傘下に収めた場合にも、テクモの社名や既存のブランド名はそのまま残す方針で、「強制ではなく、コミュニケーションを深める中でシナジー効果が生まれるのではないか」と期待を述べた。
スクウェア・エニックスはM&Aを成長戦略の1つに掲げている。「オーガニック(自律的)な成長とM&Aによる成長を同等にとらえている」と和田氏は話しており、テクモを含めて積極的に企業買収をしていく考えを明らかにした。
なお、テクモ側の反応や手応えについては「こちらから一方的に話すのはフェアではない」(和田氏)として明らかにしていない。
※追記(8月29日午後8時30分)
テクモは同日午後5時に公式コメントを発表した。「当社としましては、現在、対応を検討いたしております。ただし、現時点で決定している事実はございません」としている。