この不景気で活況を呈するオンライン・バンキング

飯田哲夫(電通国際情報サービス)

2009-02-16 17:30

 もしあなたが街で何かのリテール・ショップを経営するとする。それが何であれ、ロケーションは非常に大切だが、隣接する店舗として一番避けるべきものは何か。パコ・アンダーヒルの『なぜこの店で買ってしまうのか―ショッピングの科学』(p99)によると、それは銀行なのだという。なぜなら人には「銀行を見ると足を早める」習性があるらしいのだ。すると通行人は銀行を見ると足を早めてしまうため、あなたの店の前もあっという間に通過してしまうことになる。逆に、「人は鏡を見ると減速」する習性もあるらしい。

 人が銀行を見ると足を早めるのは、「銀行のウィンドウはつまらないし、銀行へ行くのが好きな人間はめったにいないから」で、逆に鏡を見ると減速するのは、自分の写る鏡にはどうしても目が行ってしまうので歩く速度が遅くなるからである。それゆえ、店を開くときにはなるべく銀行の隣は避け、どうしても銀行の隣になってしまう時は、店のウィンドウに鏡を設置して足を緩めさせるようにしなくてはならないという。

では、オンライン・バンキングは活況か?

 とまあ、これはリアル店舗の話であるが、一方のオンライン・バンキングは逆に活況を呈しているらしい。それは、消費者が銀行を好きになったからではなく、この不景気で口座の残高が気になり始めたからである。FinextraでForresterのリサーチ結果が報られている。それによると、調査対象となった消費者の71%が、家計を以前より気に掛けるようになり、その結果、28%の人たちは以前よりもオンライン・バンキングを利用するようになったという。

 ただ、Finextraは、このForresterのリサーチに対して、comScoreが行った調査が逆の結果を出していることも指摘している。つまり、大手金融機関のオンライン・バンキング・サイトの多くが、2008年の第3四半期において、前年度よりも利用者が減ったのだと言う。

歩行者の足を緩めるには

 この矛盾する結果については、それぞれの調査方法を確認しなくては何ともコメントのしようが無いが、ここ最近のmintを始めとするソーシャル家計簿サイトのユーザー数の伸びを見ていると、消費者が家計の管理をオンラインで行うことに関して非常に強い関心を示していることは間違いない。

 同じオンライン・バンキングと言っても、トランザクションを起こすことに長けたサイトもあれば、自分の家計を管理するのに便利なサイトもあるだろう。要は今の社会状況にあって、どういうサイトが消費者の足を緩めさせ、どういうサイトが消費者の足を早めさせるのかという違いで、アクセスは増えもすれば減りもするのである。ただ、消費者の興味を引くものが急速に変わったことは間違いないだろう。

筆者紹介

飯田哲夫(Tetsuo Iida)
電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。92年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。
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