IBMの新ビジョン「Smarter Planet」って何だ?

大河原克行

2009-08-28 09:12

 日本IBMは8月27日、東京・芝公園のザ・プリンス パークタワー東京において、「IBM Smarter Planet Forum」を開催した。

 「業界別に見る新たな可能性。地球を、より賢く、よりスマートに」をテーマに、IBMが提唱した新ビジョン「Smarter Planet」について、ユーザーおよびビジネスパートナーの理解を深めることを狙ったもので、Smarter Planetをベースにした業界別の具体的な事例やテクノロジーを紹介。業界ごとに分類したセッションやブース展示が行われた。

 午前中の講演会では、日本IBM社長の橋本孝之氏が挨拶。今年2月に同社が発表した「Smarter Planet」について説明した。橋本氏は、全世界規模で見られる様々な非効率や無駄を指摘。ここにSmarter Planetの展開が必要であることを説明した。

橋本孝之氏 日本IBM社長の橋本孝之氏

 「交通渋滞を例にあげれば、日本だけで年間38億時間、GDPの約2%にあたる12兆円が無駄となっている。1人あたり年間30時間の無駄がある計算だ。また、110年前の1900年の世界人口は17億人、それが現在は64億人と3倍になり、2050年には90億人の規模になる。その世界において、効率化は避けては通れない問題」などとした。

 また情報通信技術の進化がSmarter Planetにつながっており、Instrumented(機能化)、Interconnected(相互接続)、Intelligent(インテリジェント化)の3つの「I」が、情報通信技術の世界で起こっているとした。

 また橋本氏は、Smarter Planetを支えるテーマとして、「ニュー・インテリジェンス」「スマート・ワーク」「ダイナミック・インフラストラクチャ」「グリーンと企業の社会的責任」の4つのがあるとして、それぞれの要素を説明した。

 ニューインテリジェンスでは、「データがデータを作る世界」が訪れていると前置きし、爆発的に増える情報から瞬時に新たな知見を生み出し、変化点を見いだすことが必要になることを指摘。「こうした流れに対応するため、IBMでは7月1日に、BAO(Business Analytics and Optimization)のための組織を新設した。金融、公共、流通、製造、通信・メディアの各業界に特化し、高度なデータ分析ソリューションおよびコンサルティングを行う組織で、高速なコンピュータと分析ツール、数理解析の技術を用いる。ストリームコンピューティングという取り組みを開始しており、ここでは、すべてのデータを見て、金融分野におけるマネーロンダリングの不正を突き止めるといった使い方ができるほか、犯罪に関するすべてのデータから、逃走経路などを予測し、検挙率をあげるという成果がニューヨーク市で出ている。サンプルデータから抽出するのとは異なる、高い精度で分析ができる技術」などとした。

 また、「スマート・ワーク」は、ビジネスを変える新たな発想や、他社との協業を推進する取り組みを指すとし、SOAを活用した金融機関の例を挙げた。「複数の金融機関を利用している場合、引っ越した際には、それぞれの銀行に住所変更の手続きをしなくてはならないが、ひとつの銀行で手続きをすれば、それでほかの銀行の住所変更も行えるようになるという実証実験を行っている。集中センターを利用するのではなく、SOAによる標準インターフェースによって実現するものであり、実証実験には30以上の金融機関が参加している。これが実現すれば、世の中の無駄を省く取り組みのひとつになる」とした。

 「ダイナミック・インフラストラクチャー」は、変化に対して迅速かつ柔軟に対応できる投資対効果の高いビジネス/IT基盤であるとし、その一例としてクラウドコンピューティングを挙げた。「メインフレームでは、CPUが稼働している時間は60〜80%、Unixサーバでは10〜15%、IAサーバでは10%以下、PCでは5%程度だろう。ITリソースをいかに効率的に使うかが課題となっており、それをダイナミック・インフラストラクチャーで解決できる。クラウドコンピューティングはその技術のひとつである」とした。

 また、「IBMにとって、クラウドコンピューティングは、ATアーキテクチャによるPC、e-Businessによるインターネット、そして、エンタープライズの中でLinuxを利用するといった成果に続く、4つめの標準化への取り組み」と位置づけた。

 最後の「グリーンと企業の社会的責任」では、トラックによる物流において、CO2排出量が最小の輸送ルートになるように計算する、日本IBMの計算アルゴリズムを利用し、30〜40%のCO2削減を実現しているオムロンなどの事例を紹介しながら、エネルギーの最適利用と地球環境問題にITを活用することの重要性を示した。

 最後に橋本氏は、「Smarter Planetは、第1章に入ったばかり。ITを使うことで、賢い地球を作っていくことにまい進していく」とした。

前田泰宏氏 経済産業省、商務情報政策局情報経済課課長の前田泰宏氏

 また、基調講演では、経済産業省、商務情報政策局情報経済課課長の前田泰宏氏が、「2050年世界−グローバルに展開する新しいインフラ構築競争市場に向けて−」と題して講演した。

 米国におけるグリーンニューディール政策をはじめとする各国における環境政策、日本における環境政策などを説明しながら、「私見ではあるが、自然エネルギーを最大限に導入し、自然と調和したワークスタイルを実現する『ネイチャーグリッド』、自然の状況と生活と生産活動のマッチングを行う情報システムを実現する『ネイチャークラウド』の考え方が必要である。エコの考え方や環境政策は、既存の仕組みをベースに、いかに効率化を図るかといったことでの議論だが、ネイチャーグリッド、ネイチャークラウドでは自然と協調したワークスタイル、ライフスタイルへと変革するものになる。また、企業は、信頼資本、生命経営、感性市場という観点から、企業活動に取り組んでいく必要がある」などとした。

ブース展示 IBM Smarter Planet Forumでは、「Smarter Planet」のコンセプトを基にした業界別の具体的な事例やテクノロジーについて、セッションやブース展示が行われた。

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