ノークリサーチは3月23日、2010年2月に実施した中堅中小市場におけるIT投資実態調査の結果速報をまとめた。この調査は、年商500億円未満の国内民間企業1000社に対してアンケート形式で行われている。今回発表された速報結果においては、「前回調査時と比較したIT投資額の増減」に対する設問を軸に、年商別、業種別のIT投資傾向がまとめられている。
過去、2009年5月と2009年8月に行われた調査では、「IT投資意欲指数(IT投資DI値)」そのものは依然マイナスであるものの、改善する動きを見せていたという。その後、2009年11月時点で一旦下降へと転じる厳しい状況となったが、2010年2月には依然マイナス値を示しつつも、再び改善の方向へと推移し始めているとしている。
2009年2月から2010年2月までの経常利益DI(前回調査時点と比較した場合の経常利益の変化を「増える」「同程度」「減る」の三段階の設問とし、「増える」と「減る」の差で指標化したもの)の変化については、大企業での業績改善が波及しやすい年商300〜500億円の中堅上位企業と、特に景気に敏感に反応しやすい年商5〜50億円の中堅下位企業の2つの区分において回復幅が大きいという。同年のIT投資DIでは、年商5〜50億円の中堅下位企業と年商50〜100億円の中堅中位企業において回復幅が大きくなっているとしており、いずれの年商帯においても新規投資を差し控え、システム更新や法令遵守などの「不可避の投資」のみに絞る傾向が強いとしている。
投資対象を見た場合、年商5億円未満ではWindows 7リリースを契機としたPCハードウェアの入れ替えが行われるが、台数が少ないために投資金額規模は相対的に小さくなるという。年商5〜100億円ではPCハードウェアに加えて、基幹系システムの更新時期を迎えるため、IT投資DI値が最も高くなっているとしている。また、年商100億円〜500億円の企業においてもシステム更新のニーズを抱える点は同じだが、複数年度に渡る経営計画やIFRSなどの法改正を見据えた中期的な観点での検討をまず行うことを優先し、IT投資に対しては慎重な姿勢を示す傾向が強くなるという。
こうした理由から、IT投資DI値は「基幹系システムおよびPCハードウェア更新を主な事由として、年商5〜100億円のユーザ企業層において回復幅が大きくなっている」としている。ノークリサーチでは、ソリューションを提供する側としては、単なる更新需要の充足に留まらず、レガシーマイグレーションによる基幹系システム更新とあわせたサーバ仮想化によるITリソースの全体最適化提案、PCハードウェア更新に伴うPC運用管理、資産管理などの提案といった付加価値の訴求が重要なポイントとなるとみている。
業種別で「小売業」だけ回復が他より鈍い理由
一方、2009年2月から2010年2月までのIT投資DI値の業種別変化でいえば、流通業においてIT投資DI値の回復幅が大きくなっているという。これは流通業の一部に遅れてIT活用へと取り組む企業があることに起因しており、流通業の経常利益DI値は、今回の調査で全業種の中でも唯一改善されておらず、引き続き厳しい状況が続いているとしている。その中で、自社の収益性を改善することが企業存続に不可避であると判断した一部の流通業者が、全体のIT投資DI値を引き上げる結果となっているという。
また、組立製造業、加工製造業、建設業、卸売業、サービス業については、経常利益DI値が依然マイナスながらも回復へと向かっており、基幹系システムやPCハードウェアの更新を主体として回復しつつも抑制気味のIT投資傾向を示しているという。一般企業のこうした動きを反映して、IT関連サービス業もほぼ同様のIT投資DI値の変化を見せているとしている。
小売業は他業種と異なり、経常利益DI値の回復状況と比較するとIT投資DI値の回復幅が小さくなっているという。小売業では消費者の購買動向が景気回復後も元に戻る可能性が低いと考える傾向が強い。そのため、安易なシステム更新を避け「巣ごもり型消費」に代表される新しいスタイルに対応するための中長期的な施策を練ろうとする傾向が強いという。その結果、他業種と比較して現時点のIT投資DI値の回復幅が小さくなっていると考えられるとしている。
ノークリサーチは、直近ではシステム更新需要が主体ではあるが、小売業の傾向に見られるように中長期を見据えたIT施策検討は既に始まっているとみている。そのため、ソリューションを提供する側としては目先の案件だけではなく、IT投資DI値がまだマイナスである今の段階から中長期的な視点での提案を粘り強く行っていくことが重要であると分析している。