グローバリゼーションの時代だからこそ人力翻訳を

飯田哲夫(電通国際情報サービス)

2010-09-14 08:00

 TechCrunchに、myGengoという日本発の人力翻訳のベンチャーが8カ国の投資家たちから資金を集めることに成功したという記事があった。このベンチャー、事前に一定の試験をパスした翻訳者をプールしておき、依頼者からの翻訳依頼をウェブ経由にて受け付ける。さらにはAPIを用意しておくことでサイト翻訳などの依頼自体が自動化されるようにできる。

 つまり、通常の翻訳会社の営業プロセスや事務プロセスをネットで単純化することで、オーバーヘッドを極小化する仕組を構築している。こうした工夫で実現される低コスト・オペレーションで競争優位を築こうというビジネスモデルだ。これだけ聞くと、従来型のビジネスモデルをネットによって置き換えていく流れの一つとして整理することができる。

 でも、ここでちょっと面白いなと思ったのは、機械翻訳ではなく、むしろ人力翻訳というビジネスに多くの投資家が関心を示しているということだ。グローバリゼーションの時代、人手に頼った翻訳ではとても要求には応えきれないのではないかと思ってしまうのだが、やはり人力翻訳でないと駄目なのだろうか?

コミュニケーションとは何か

 「コミュニケーション」を、二者がその意志を通わせることとするならば、直接向かい合うシチュエーションにおいては、その80%は言葉以外の手段で行われるそうだ。つまり、言葉が果たす役割というのは決して大きくない。要は細かいことは良く判らなくても、相手の表情や身振り手振りを見ていれば、こちらの発言に対して肯定的なのか否定的なのかは、大方想像がつく。

 外国語だとなんだか100%聞き取れないと分からなかったような気がしてしまうが、われわれ日本語では相手の話を逐一聞いていなくても会話は成立してしまう。それは、相手の言葉が相手の言葉以外のコミュニケーションによって補完されているので、大体聞いておけば理解ができるのである。

 逆にわれわれが電子メールなどのコミュニケーションによって誤解やすれ違いを拡大させるのは、相対では20%しか役を果たすことのできない言葉によってのみ意志を通じさせようとするからに他ならない。英語のコミュニケーションでも、フェイス・ツー・フェイスよりもカンファレンスコールが難しいと感じるのも同じ理由による。

グローバリゼーションの時代のコミュニケーション

 さて、時代はグローバルと言われて久しく、グローバルという言葉自体に既に何の新しさも感じなくなりつつある。日系の企業でも海外展開を見据えて社内の公用語を英語にするというところも出始めた。しかし、グローバリゼーションは言葉を合わせるだけで解決するものではない。それはコミュニケーションのわずか20%に過ぎないからだ。

 では、残りの80%を言葉以外のコミュニケーションでカバーすれば良いかといえば、そうではない。グローバリゼーションの時代においてコミュニケーションを図ろうとすれば、さらに相手の文化、経済、国家、人種など多様な背景情報と併せて理解することで初めて実現されるものである。つまり相手の立場を思いやることができて、初めて本当のコミュニケーションが成立するというものだ。

 こう考えると、これからの翻訳サービスが機械翻訳ではなく人力翻訳というのは最もであるし、そこにはさらに多様な背景情報と合わせた翻訳サービスというものが求められて来るだろう。myGengoにそこまで期待するべきではないかもしれないが。

筆者紹介

飯田哲夫(Tetsuo Iida)
電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。1992年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。

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