リーナス・トーバルズ氏「OSは誰からも見えない存在になるべき」

冨田秀継(編集部) 2011年01月02日 00時10分

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 世界中のあらゆる分野で活用されるOS「Linux」。企業の情報システムでの活用はもちろん、電子機器での採用が増えるなど、私たちが触れていながら気がつかないところで着実に実績を重ねている。

 Linuxの創始者であるLinus Torvalds氏が11月下旬に来日し、ZDNet Japanの1時間にわたるインタビューに応じた。インタビューの前半では、社会に欠かせない存在となったLinuxが今後、コンシューマー向け製品にどのように挑戦していくのかを語ってもらった。

 今回はその後半、OSからアプリケーションへの移行が進むにつれて、消費者からは見えにくい存在となっていくLinuxについて話を聞いた。

Linus Torvalds氏 Linus Torvalds氏

 まず最初に「コンシューマライゼーション」について、ポイントを二つに絞って話を聞いた。

  1. イノベーションが起こる場所の変化:従来は、大企業や政府、軍など、大組織(エンタープライズ)での技術活用が契機となりイノベーションが生まれていた。それが近年、一般消費者向け(コンシューマー)市場でイノベーションが発生している。FacebookやTwitter、iPhoneやiPad、Androidがその典型例として挙げられる。
  2. 消費者市場で生まれたイノベーションの企業活用:ソーシャルメディアやスマートフォン、タブレットデバイスなど、コンシューマー市場で生まれた製品が、次に企業で活用されるという逆転現象が起きている。従来はエンタープライズで発生したイノベーションが、コンシューマー市場に“下りてくる”のが常だった。

 Torvalds氏は「イノベーションが起こる場所の変化」について、次のように答えている。

 「全く別の(時には競合し合う)二つの技術に関係を見出し、一つに組み合わせることで素晴らしい何かが生まれることがある。音楽と小さな電子機器を組み合わせて、携帯型MP3プレイヤーが生まれたようにね。オープンソースの分野でそのようなイノベーションはどこにあるか。たとえば、コンシューマー製品の代表格であるTVとオープンソースを組み合わせて、インターネットアクセス機能を提供してYouTubeを閲覧できるようにする。TVとオープンソースとインターネットを組み合わせるのは、天才の仕事ではない。しかし、元々別のものを一つに統合し、全く新しい何かを作る試みは、非常に明解で重要なステップだ。オープンソースが素晴らしいのは、他の何かと統合しやすい点にある」

 TVとオープンソースとインターネットの組み合わせというと、容易にGoogle TVを連想できる。その点について聞くと、Google TVについては直接触れず、話を続けた。

 「イノベーションがどこで起こっているか、というさっきの質問に戻ろう。答えは……あらゆる場所で起こっている。企業の内部であったとしても、企業内の個人が組み合わせの妙で素晴らしい製品を開発していると思う」

 さまざまなデバイスやシステムで活用されているLinux。しかし、私たちとコンピューティングの接点が、OSからアプリケーションに移行するにつれて、ユーザーとLinuxの間に距離が生まれるようにも思える。この点について、懸念はないのであろうか。

 「僕は長年、多くの人々にOSは決して面白いものではないと訴えてきた。OSは、僕のような専門家にこそ面白いもの。僕はハードウェアに近いところで開発するのが好きだし、ハードウェアを隅々までコントロールするのも好きだ。けど、一般の人達がOSを意識すべきとは思わない。OSは完全に不可視の存在にすべし、とさえ思う」

 「テレビや携帯電話を買った一般の人達が、その製品でLinuxが動いていると気づく必要があるとは思わないんだ。とはいえ、マニュアルの最後のページには“Linux is the trademark of Linus Torvalds”なんて書いてあったりもするけど(笑)」

 「専門家でない(一般消費者のような)人達は、ブラウザやメールクライアント、オフィスツールを使っている。OSが大事だという考えは間違っている。みんなは技術に注意を払ったりしない。関心があるのは、作業や仕事をちゃんと終えられるかどうか」

 「Linuxが不可視の状態になったら、僕は本当にハッピーだよ。でも、OSは現時点において不可視の存在じゃない。OSはまだそこにある。僕は技術的な細かい部分にまで興味があるけど、多くの場合において、OSは誰からも見えない存在になるべきだと思う」

 では、そのアプリケーションがOS化するという未来――典型的にはブラウザがOSになるという未来については、どのように考えているのだろうか。この展望についてTorvalds氏は明言を避けつつ、次のように語ってくれた。

 「10年前にはWindows vs. Linuxとか、Bill Gates vs. Linus Torvaldsなんて話をよく聞かれたよ。思うに、今はInternet Explorer vs. Firefox vs. Chromeという状況に移行している。これより下のレベルに人々は関心が無い」

 「状況はより前向きだと思う。OSは必要とされるだろう――主にブラウザを走らせるためにね」

 インタビューの最後に話題になったのはビデオカメラだ。ビデオカメラを使っていてもOSを意識することはない。どんなビデオカメラを使っても、インターフェースやメニューが違うだけだ。競合メーカーであっても同価格帯の機種であれば、機能や性能で「できること」に制限が発生することはほぼ無い。裏返して言えば、そこに気づく人達が「専門家」なのだろう。

 インタビューに同席したJim Zemlin氏(Linux FoundationのExecutive Director)と、福安徳晃氏(Linux Foundation ジャパンディレクタ)、そしてTorvalds氏と最後に話したのは、そんな時代がコンピューティングの世界にも訪れる可能性についてだった。

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