楽天証券がExadataを選んだ理由--迅速な復旧と障害の未然防止

大川 淳

2011-07-07 17:19

 楽天証券は、基幹データベースシステムを既存のハイエンドサーバから「Oracle Exadata」に換え、3月に稼働を開始させた。個人投資家による投資ブームが起こった2005年以降、楽天証券では取引が急増し、基幹データベースの安定稼働に向けたシステムの刷新が最大の経営課題となっていた。

 新たな基幹システムでは、1つのデータベースサーバに対して物理と論理の2つのバックアップサーバを用意。通常時はこれらをスタンバイ状態にしているが、障害発生時には切り替えて基幹サーバとして稼動させる。通常のサーバとバックアップサーバ間は、Oracle Databaseのデータ保護機能「Oracle Data Guard」を用い、リアルタイムに同期をとっている。

 新たなシステムによる効果は、発注処理が最大200%、株価参照取引処理の時間が最大700%高速化。また、夜間バッチ処理が100分から60分に短縮され、さらには他社製ハイエンドサーバ6台で構成された旧システムと比較して、電力消費量を43%低下させることができた。これらの効果により、データセンターのコストを年間約5000万円削減できたという。

システムトラブルで業務改善命令を受けた苦い過去

 楽天証券は取引口座数が111万を超え、国内ネット証券では2位の座につけている。取引口座数は投資ブームの追い風を受け2005年から急激に拡大、トランザクションも大幅に増加した。その結果、成長の勢いにシステムの整備と強化が追いつけなくなることもあった。2005年11月から2009年3月までの間に、システム障害によって金融庁から3回の業務改善命令を受けたのだ。

 そこで同社は、システムの根本的な見直しが必要であると判断、2009年4月にすべての執行役員、システム関連部門部長、社外有識者などからなる「システム安定化推進委員会」を設立。委員会の決めた方針を具現化する「システム安定化推進部」も設置した。

楽天証券 今井隆和氏 楽天証券 今井隆和氏

 楽天証券 取締役 常務執行役員 CIOの今井隆和氏は「障害は必ず起きるものと想定し、迅速な復旧、影響範囲を極小化することと、重度障害発生の可能性がある事象を除去することの2点が焦点となった」と話す。

 このプロジェクトでは、データベース障害が発生した場合でもサービスを継続できる環境の実現、メンテナンス時間の短縮、夜間取引停止時間の短縮を主眼として、システムの刷新を進めてきた。こうした可用性向上の取り組みの一環として、同社は「Oracle Maximum Availability Architecture(MAA)」を導入。MAAは、考えられる得るシステム障害を列挙し、影響や具体的な対策、復旧までの時間などを分類、整理して参照できるフレームワークで、オラクルが基幹システムの高可用性を実現するために提供しているものだ。

 システムの改新にあたり、楽天証券はプラットフォームの選定基準として、可用性、拡張性、コストパフォーマンスの3点を挙げた。優先順位もこの順で、可用性を最重視した。ハードやソフトの障害発生時に、サービスを継続できる、あるいは最小の停止時間で復帰できることを条件とした。拡張性は、性能が一定の時点で飽和してしまわないことが前提となった。同社は、これらの基準で実機検証を実施し、MAAが基準を満たした点を高く評価、Oracle Exadataの採用を決めた。

 「Oracle Exadataは、CEOのLarry Ellison氏が肝いりとなって展開しており、ハードもソフトも、オラクルの強いコミットメントを得られていた」(今井氏)ことも理由のひとつだという。

 2010年2月頃、Oracle Exadataの採用を決定し、同年秋からアプリケーションテストやデータ移行テストを開始した。2011年3月18日から移行を実施し、本番システムは3月21日に稼働、3月31日には旧システムを停止して移行が完了した。

日本オラクル 三澤智光氏 日本オラクル 三澤智光氏

 日本オラクル 専務執行役員 製品事業統括兼テクノロジー製品事業統括本部長の三澤智光氏は「可用性を高くするための要件を突き詰めるとシステムは複雑になるが、Exadataは、サーバ、ストレージ、ネットワークスイッチなどをひとつのアプライアンスに統合した製品であり、シンプルな構成でMAAを実現しやすかった。Exadataは、高速処理性能を理由に導入されることが多いのだが、今回はMAAを実現できるということで選択された」と述べた。

 Exadataのような製品は、高速処理が各社の競合点として大きな要因となるが、今後は、BCP、DR、移行の容易さといった点も争点として一層重視されるようになるだろう。

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