情報設計(Information Architecture)に詳しい長谷川恭久氏が、スティーブ・ジョブズの死去に寄せたエントリーを投稿した。いつも氏の側にいたアップルを通して、スティーブ・ジョブズへの思いを綴っている。(ZDNet Japan編集部)
私が最初にMacに触れたのは、PowerPC Macで1994年のことです(どのモデルかは記憶にないです)。アメリカに留学中のときにホストファミリーが購入したもので、時々触っていました。学校にはブルースクリーンが目に刺さるIBMのパソコンしかなかったので、Macのやさしさを感じるインターフェイスは驚きでした。当時はどこか人を寄せ付けない雰囲気をもっていたパソコンでしたが、Macには逆に人を引きつける『何か』があったのは今でも覚えています。用事がないのについ立ち上げてしまう・・・そんな存在でした。
その後、Macは私の中では遠いあこがれの存在でした。iMacが登場したことで、高価で手の届かないMacという印象はだいぶなくなったものの、踏み切る理由を見つけることが出来ずWindowsを使い続けていました。
転機になったのがデザイン学科を専攻したことと、プロスペックのMacを低価格で購入することができるPower Mac G4 Cubeが登場したこと。わずか1年で生産終了したCubeですが、自分のキャリアをスタート出来たのも、Appleという会社の魂に触れることができたのもCubeのおかげです。アメリカで購入しましたが、帰国の際わざわざ輸送して使い続けた思い出のMac。あれから機種は何度も変えましたが、そのときからずっとMacを使っています。
その間に、Appleは私の音楽生活をiPodによって激変したり、モバイルの新しい付き合い方をiPhoneやiPadを通して教えてくれました。
学生のときから常に私に何かを訴え続けていたApple製品の生みの親Steve Jobsが10月5日に亡くなりました。Appleファンであれば、誰でも考えたことであろうこの日。けど、まさかこんなに早く来るとは想像していなかったかもしれません。
僕にとってのSteve Jobsは、勇気のある人であり闘う人。
Appleのシンプルは、製品やUIだけでは成し遂げることが出来ません。サービスだけでなく業界そのものを巻き込んだムーブメントを設計したことがシンプルに繋がっていると思います。普通の人であれば、そこまで大きなスケールで考えて設計することはまず考えないでしょうし、大きなリスクであると批判するでしょう。常識・無難という考え方に常に疑問を投げかけ、ニーズに応えるのではなく、ニーズに気付かせるデザインをしつづけたところが他のテクノロジー会社との大きな違いだと思います。こうした「Think Different」は、反対勢力と困難があることを承知で実行するという勇気が必要だと思います。そして、最後まで諦めずに闘う力があるからこそ形になっているのではないでしょうか。
彼の人生をみてもそうでしょう。癌になっても他界する直前まで自分のビジョンのために闘い続けることは勇気以外なにものでもないと思います。
誰もがSteve Jobsのように世界を変えることは出来ないでしょう。ただ、何かを変えるということは、たとえ自分の職場という小さな世界でさえ、大きな勇気と闘う力は必要だと思っています。彼はそれに気付かせてくれるインスピレーションを与えてくれた人です。
アメリカにいた当時、ある教育関連のカンファレンスに参加したことがあります。目的は、当時Appleが開発していたPowerSchoolのプレゼンをしに来たSteve Jobsを見にいくためです。私が座っていた席からではSteve Jobsは豆粒のように小さくスクリーンを通してでしか確認することが出来ませんでした。
近づいたと思っても限りなく遠い存在・・・それがSteve Jobsなのかもしれません。Apple製品を通して常に私たちの近くにいる存在であると同時に、私たちより何歩も先を見ている近寄り難い人。あのカンファレンスで見たSteve Jobsの距離感が彼の存在そのものを表していたのかもしれません。
ずっとこのまま遠い存在だと思います。それでも彼のように勇気をもって闘うということで、自分の世界に何か変化をもたらすことが出来ればと思います。
ありがとう、Steve Jobs。
ZDNet Japan編集部:本稿は長谷川恭久氏のブログ「could」からの転載です。
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長谷川恭久
ブログ「could」主宰の「デザインする人」
デザインやコンサルティングを通じてWebの仕事に携わる活動家。Webとデザインをキーワードに情報発信をしているだけでなく、各地でWebに関するさまざまなトピックで講演を行ったり、多数の雑誌で執筆に携わる。