SAPジャパンは7月10日、イベント「SAP Forum Tokyo」を開催した。毎年世界各地で開催している独自イベントの日本版。東京での開催を皮切りに、16日の名古屋、18日の大阪と3カ所での開催を予定している。
基調講演では、グループごとに使用していた異なる統合基幹業務システム(ERP)の統合を進める旭化成の事例と、SAP AGのエグゼクティブバイスプレジデントであるChakib Bouhdary氏によるSAP自身が取り組む、イノベーションによる新しいビジネス価値創造が披露された。Bouhdary氏は「IT予算の8割が運用に投資されている状況を(インメモリデータベースソフトウェアの)HANAのような新しいテクノロジによって変革しなければならない」と変革によってビジネス価値を変えることの重要性を強調した。
SAPジャパン 代表取締役社長 安斎富太郎氏
旭化成 取締役兼常務執行役員 小林宏史氏
将来の技術を予測し、実行する力
基調講演の冒頭には、SAPジャパンの代表取締役社長である安斎富太郎氏が登場。「SAP Forumは昨年も開催しているが、2012年は3カ所で2000人の来客となった。2013年はそれを大きく上回り、東京会場への登録だけで2000人を超える数となった」と説明した。
今回のSAP Forumは、ビジネスにもたらすさまざまなイノベーションによるビジネス価値の創造をテーマとしているが、安斎氏は「SAP自身も昔とは大きく変わっている。現在の技術を使ってどんなことができるのかを考えるのではなく、本当にユーザー企業が何を望んでいるのかを考えて動く必要がある。現在の技術がどう変化していくのかだけでなく、将来の技術でどう動いていくのか予測し、それを実現する実行力を持つことが重要」とSAP自身がHANAのような新しい技術を取り入れていくことで、ビジネス価値を大きく変化させたとアピールした。
続けて、旭化成で最高情報責任者(CIO)を務める取締役兼常務執行役員の小林宏史氏が旭化成自身の導入事例を説明した。
同社は売り上げの40%を占めるケミカル・繊維をはじめ、エレクトロニクス、住宅・建材、ヘルスケアと大きく4つの事業領域がある。
「1996年から(ERPパッケージのSAP) R/3を利用しているが、事業会社ごとの独立採算を進めていく中で、それぞれ別々のERPを導入し、13種類のERPが利用されている状況となった。2015年に向けた中期経営計画で、ITでも経営を支える新しい基幹システムが必要となると判断。13あるERPには重複部分も多いため統合を進めることとなった」(小林氏)
ERPを統合することで、組織変更への対応を素早く実現する効率化の実現、総所有コスト(TCO)を2~3割削減、4500本あるアドオンを1500本程度、1万5000本ある帳票を1000本へ、さらにHANAの導入でデータ活用の推進を実現と思い切った統合を実現する計画となっている。
2010年からプロジェクトの検証を始め、現在は第1期としてケミカル事業の統合を進めている。実際にプロジェクトを進める中では品質コントロールとプロジェクト運営という二つの課題があったという。
「品質コントロールについては要件定義の際トラブルが起こり、一度立ち止まってやり直した経緯がある。すべてトラブルなしに進んでいるというわけにはいかないが、経営に役立つITという課題に近付いていると実感している」とプロジェクトの手応えを感じていると小林氏は強調した。