アイ・ティ・アール(ITR)は5月15日、年次イベント「ITRエグゼクティブ・フォーラム IT Trend 2013」を開催した。「変革と創造で攻めに転じるIT戦略への指針」をテーマに、ITRのアナリストが全12セッションを通じてリサーチやコンサルティングの活動をベース長期的な展望に立ったメッセージを発信する場とした。
全社的取り組みが進まない
基調講演では、同社代表取締役であり、プリンシパル・アナリストの内山悟志氏が「近未来を切り開く攻めのIT戦略」と題して、十数年間の調査と最新動向を踏まえ、企業ITとIT部門が切り開くべき未来を提言した。
内山氏は調査データをもとに、情報システム部門が置かれた現状を示した。ITRが2012年10月に実施した調査によると、2012年度にIT投資を増額した企業は前年調査よりも若干増加したものの、減額とした企業の割合も上昇したという。2013年度も引き続き、IT投資の低成長が予想されるという。
IT部門の戦略テーマとしては、2012年度に1位だった「業務コストの削減」が2013年度には3位となり、3位だった「売上増大への直接的な貢献」が1位となった。
代表取締役兼プリンシパル・アナリストの内山悟志氏
「これまでのコスト削減の取り組み実績をベースに、いよいよ売り上げに貢献できるようなIT活用に進みたいと考えていることが明らかになっている」(内山氏)
IT基盤の統合と再構築が最も重要とされる一方で、クラウド、ビッグデータ、ソーシャルテクノロジなどの新たなキーワードに対しては重要度という点では主流になっていないことも示された。
内山氏は、10年前の調査と同じ質問項目による調査を実施したことに触れ、その結果として、内部統制に関わる規定策定などを背景に、コンピュータ利用基準の文書化やシステム監査を行うといったところでは大きな改善が行われていることが判明した。
その一方で、現場の従業員や経営者が情報システム部門をあまり重要視していない点は、10年前とあまり変わっていないことも浮き彫りになった。さらに、情報やナレッジの共有、再利用環境の整備、全社的なコンテンツ管理インフラの整備、マスターデータの統合といったユーザー部門を巻き込んだ取り組みが求められる施策については、遅々として進んでいない実態も明らかになった。
内山氏は「情報システム部門は、守りのIT戦略を実行してきたが、言い換えれば、J-SOXなどの内部統制に振り回されてきた10年だったといえる。そこに力を入れたために、経営者や社員からは、情報システム部門は、攻めのところには踏み出していないという評価のままとなっている」と解説する。
「情報システム部門は、役割の拡大の複雑化や高度化が求められているが、人材不足や強いコスト抑制圧力がある。やることはたくさんあるが、人やお金がないという三重苦の状況がある」(内山氏)
続けて、内山氏は組織の未来の形について触れた。ここでは、社内外を問わずにそれぞれの得意領域を持ったタスクフォースのメンバーがプロジェクト型で遂行し、成果を分配する“トライブ(部族)”型の組織が広がるという。加えて、トップダウンではなく、現場を知るメンバーの意見を反映して、常に軌道修正を重ねる業務遂行形態である“予測市場”の2つがキーワードになると説明した。
これに、グローバル化の進展、就労者と就労形態の多様化、組織のトライブ化や既存の階層型組織とネットワーク型組織を両立させる“デュアルOS型”組織への対応、大きな意思決定のオープン化、小さな意思決定の自動化といった動きが見られるとした。