ZDNet Japanは5月、クラウド環境の運用管理に関するアンケート調査を実施した。その結果からは、いまだ国内で普及が進まないクラウドが抱える課題、あるいは理想と現実との差、クラウドへの誤解など、企業が感じているクラウド像の実態が浮かび上がってきた。
この調査結果をもとにして、アイ・ティ・アール(ITR)シニア・アナリストの甲元宏明氏に話を聞いた。
二極化するクラウドへの対応、セキュリティ懸念し「保守的」姿勢に
--まず、クラウドの導入状況ですが、「導入していない」が45.1%に上っていますね
クラウドには依然さまざまな問題があるため、まったく検討していない企業と、前向きに考えている企業に二極化していると思います。
導入の意思が皆無という場合、どうしてもデータを外部に置くことに抵抗があるようです。機密情報は社外に持ち出すべからず、というような内部規定がかなり以前につくられ、そのままの状態が継続しており、オフとオンの意思決定は誰がするのか、責任の所在はどうなるのかなどが曖昧になっていて、CIOも判断できないといった例が見受けられます。
そのような状況から脱している企業は、クラウド導入に向けて動いているというわけです。
--PaaSは4.2%に留まっています。米国ではPaaSの利用が過熱している面があるため、なおさら4.2%という数字が低いように思います
国内では、PaaSを提供するプレイヤーがほとんどいないからでしょう。現状では、セールスフォース・ドットコムや日本マイクロソフトくらいのものです。GoogleのGoogle App Engineは、エンタープライズで使うにはまだ十分でないと感じる向きが少なくないのだと思います。
PaaSとなると、国内のベンダーは相当困難な道を歩むでしょう。国内ベンダーがPaaSに参入するのはかなりハードルが高く、規模の経済を考えると相当な技術投資が必要になります。しかし、国内市場に限定した事業展開では採算が合いません。
本来はPaaSこそ企業に高い価値をもたらすはずなのですが、そこには至っていません。PaaSのデファクトスタンダードはどこになるのか、まだ若干見えていないことも、企業をためらわせているようです。
--「クラウド導入について期待すること」という問いでは、「トータルコストの削減」が最多で26.5%でした。震災後ということもあってか「省エネ・省スペース」が14.6%で、これに次いでいます。また時節柄、節電への関心も高いようです。その反面、「モバイル化の推進」は6.9%と意外に低い。モバイル活用はセキュリティ面での不安があるからでしょうか
このところ、スマートフォンやタブレット型端末が人気を集めています。無線LANも伸びており、そのほとんどがモバイル関連です。社内LAN環境は、確実にモバイルに侵食されていると思います。しかし、多くの企業はセキュリティ面を考慮してVPNを用いており、モバイルの活用度は低く、それを介したパブリッククラウドの利用などはまだ少ないのが現状です。本当は、もう少し利用されれば利便性は高くなるのですが。
--モバイルを活用すれば、基本的にどこでも仕事ができるようになりますが、パフォーマンス管理などが課題になりますね
一般企業が在宅勤務を実行するとなると、実際の勤務時間がどれほどになるのか、会社側が把握しづらくなるという面もあります。大企業は、国から過剰労働にならないようにといわれていますが、在宅勤務になると本当に残業しているかどうか、外部から特にわかりにくくなります。