本命は公共インフラ
「ビッグデータの利用が本格的に進む分野は公共インフラだろう」
こう話すのは、情報・システム研究機構の理事で、統計数理研究所所長を務める樋口知之氏だ。モバイル機器に搭載されたセンサ、リモートセンシング技術、ソフトウェアのログ、カメラ、マイク、RFIDなどを、ビッグデータの源になるデータ収集メディアとして樋口氏は挙げる。
ソネットが、データセンター向けにテラバイト規模のストレージ貸し出しサービスを4月に開始したことを記念し、ソネットは7月17日にサービスを紹介するセミナーを開催。ZDNet Japanは「データ同化は今後の“ものづくり”に欠かせない基盤技術」をテーマに登壇した樋口氏に、講演後話を聞いた。
統計数理研究所所長を務める樋口知之氏
ベイジアンモデリングや時系列解析などを専門とする樋口氏は、学術的な観点からのビッグデータへの取り組みで注目を集めている。先日発足した「一般社団法人データサイエンティスト協会」でも顧問を務め、記者会見で話をした。
樋口氏によると、公共インフラの建築、維持、管理におけるビッグデータの典型的な活用方法の1つは、橋などの老朽化を図るためのセンサを設置し、耐久性などを常に把握して修繕したり、橋であれば掛け替えたりといった対策を打つことにある。
地震大国である日本において、橋や建築物の安全性確保は、災害における死傷者発生などの大惨事の回避だけでなく、円滑な経済活動を続けるためにも不可欠な要素だ。従来型の点検では把握しきれないような事柄まで分かるようになれば、ビッグデータ解析の社会的な意義がぐっと高まるともいえる。
「データの価値次第でインフラの設計は大きく変わってくるため、データ価値の可視化、定量化は情報分野における大きな研究テーマになっている」(同氏)。データの解析で分かること、あるいは分からないことを把握することで、橋などの公共インフラも作り方が変わってくるというわけだ。
さらに「公共インフラ周りは予算が付きやすい」(樋口氏)ことも、ビッグデータ活用の本丸になるとの予測につながっているとする。
脱職人依存のススメ
樋口氏が主張するのは、日本企業にいまだに根強い、という職人技術への過度の依存からの脱却だ。
「機械は許しても、指先がわずかな誤差を許さない」
東京のモノづくりを特集したテレビ番組で、職人の技術力の高さを紹介したこのせりふを引き合いに出す。