組織の透明力

半沢直樹の戦略と派閥撲滅の秘策を考察する - (page 3)

斉藤徹(ループス・コミュニケーションズ)

2013-08-28 11:00

しっぺ返し戦略を凌駕した「派閥戦略」

 しかし、この話には続きがある。2004年、アクセルロッド氏の選手権20周年記念として、ゲーム理論研究者のグレアム・ケンドル氏が同様の大会を主催したのだ。参加者はさらに増えて223組となり、前回と同じ総当たり戦でプログラムが戦うこととなった。

 この大会において、ついにしっぺ返し戦略が敗れることとなる。勝者は60ものプログラムを送り込んだサウサンプトン大学のチームだった。リードしたジェニングズ教授によると、それらのプログラムはすべて、ある1つの戦略を少しずつ変化させたもので、互いに仲間を認識できることがミソだった。派閥をつくるプログラムだったのだ。彼らは仲間であることがわかると、すぐに、「主人と奴隷」の関係になるようにプログラミングされていた。片方は自分が犠牲になり、他方が繰り返し勝てるように設計されていたのだ。

 いわば「派閥戦略」だ。犠牲になるプログラムは、相手が自分の派閥でなければ即座に裏切り、相手をつぶす行動に出る。この結果、成績の上位3位までをサウサンプトン派閥のプログラムが占めたが、同時に、成績表の下のほうには派閥に身を捧げて破れていったプログラムが多く発生してしまった。社会性を持つ動物は、自己犠牲をしながら血縁を守る習慣を身につけることがあるが、この実験はその進化の過程を示唆するものと言えるだろう。

 大和田常務を頂点とする「派閥戦略」は、半沢の得意とするしっぺ返し戦略の天敵ともいうべき作戦だということが明らかになってきた。大和田は常に冷静で、部下を自分の出世のために自由自在に動かしてゆく。これまで気にかけてきた部下であっても、切り捨てるときには容赦ない。浅野をはじめ、小木曽、灰田など、半沢に手向かいながら犠牲になる仲間を尻目に、さらなる刺客を送り込んでくるはずだ。彼の辣腕は、東京中央銀行を大和田色に染めてしまうのだろうか。

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