組織の透明力

数字か人か--現代のビジネスを揺さぶる核心

斉藤徹(ループス・コミュニケーションズ) 2013年10月01日 11時45分

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マクロの視点とミクロの視点

 「木を見て森を見ず」という言葉がある。細部にこだわると全体を見失ってしまう、そんな意味のことわざだ。同じものを見聞きしても、立場によって「モノの見方」がまったく違う、なんてことは珍しいことではない。

 企業の組織においても同様だ。経営層から「マクロ視点」で見下ろす企業組織と、現場から「ミクロ視点」で見上げる企業組織は、同じ実体であってもその見え方はまったく異なってくる。組織が大きくなれば、なおさらのことだ。経営層は組織を「心のない機能構造」として扱うのに対して、現場社員は組織を「心を持つ同僚の集まり」だと考えるからだ。大和田常務と半沢直樹、警視総監と青島刑事は、そもそも見ている景色がまったく違うのだ。

 実際の僕たちは心を持ち、異なった個性を持っている。狩猟をするため、農耕をするため、工業製品をつくるため、ひとりではできないことを協力して達成するために、人間は古くから組織をつくってきた。組織が小規模な場合は参加メンバーの個性が際立つが、100人、1000人と大規模になるにつれ、メンバーの個性は埋没し、組織としての個性が滲みだしてくる。

 その組織を機能させ、成果をあげることが「マネジメント」の役割だ。そのためには組織全体からの俯瞰的な視点が重要となってくる。一方で、組織に参加しているのは心を持った人々だ。彼らは人間として尊重され、ひとりひとりが幸せになることを強く望んでいる。

 マクロの視点か、ミクロの視点か。事業の視点か、人間の視点か。「マネジメント」という概念が登場したのは約100年前のことだが、それ以来、このマクロ(事業)とミクロ(人間)の視点は、相反する課題を抱えつつ、相互に補完しあいながら発展してきた。この記事では、今、あるべき組織像を知るために、2つの視点でマネジメントの歴史を探っていきたい。

マクロ視点の原点、科学的管理法

 チャップリンの偉大なる名作『モダン・タイムス』をご存知だろうか。オープンニングに流れる「人間の機械化に反対して、個人の幸福を求める物語」というメッセージに、彼がこの映画で伝えたかったことが集約されている。舞台は100年前の巨大な工場、チャップリン演じるチャーリーが巨大歯車に巻き込まれるシーンは、機械の一部となって働く人間を象徴して、大きな話題になった。

チャップリン演じるチャーリーが巨大歯車に巻き込まれるシーン(出所: 「モダン・タイムス」チャールズ・チャップリン)
チャップリン演じるチャーリーが巨大歯車に巻き込まれるシーン(出所: 「モダン・タイムス」チャールズ・チャップリン)

 ここで、マネジメントの歴史を分かりやすく体感するために、テレビドラマ『半沢直樹』にならい、家電メーカー「東京中央電気」を舞台として「マクロ視点」の大和田派と「ミクロ視点」の半沢派の争いというカタチで、時代の変遷を追ってみたい(東京中央電気は、最新のマネジメント理論を導入する大手家電メーカーとして筆者が仮定したものです)。

 東京中央電気は、家電製造を本業とする老舗メーカーだ。1920年当時、また中規模だった工場にベルトコンベアによる流れ作業を導入したのが大和田暁社長だった。朝から晩まで部品のねじを回し続ける。そんな単純作業が工員の仕事だ。冷徹な社長は労働者たちを常に監視するシステムを構築し、職長を通じて指示を出す。同じ人間から機械の歯車のように扱われ、社員たちの尊厳は傷つけられる。しかし、その成果は目を見張るほどで、導入前と比較して生産性はなんと5倍にアップし、瞬く間に競合他社を圧倒してゆく。一方で、単純作業の果てに心を病み、退社していく社員も絶えなかった。

 この時、大和田社長が駆使したのが、フレデリック・テイラーが開発した「科学的管理法」だ。仕事を分析し、労働者が1日でこなすべき仕事を分配する。計画する監督者と、実行する作業者を明確にわけ、それぞれの仕事を規定する。この「科学的管理法」こそマクロ視点(事業視点)のマネジメントの始まりだ。働く者の人間性を軽視するなど批判も多かったが、製造業に劇的な生産革命をもたらし、大量生産、大量販売を実現する原動力となった。

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