組織の透明力

数字か人か--現代のビジネスを揺さぶる核心 - (page 4)

斉藤徹(ループス・コミュニケーションズ)

2013-10-01 11:45

事業視点と人間視点、バランスのとれたマネジメントへ

 しかし、カタストロフィーは突然訪れた。サブプライムローン問題に端を発した金融危機は、2008年9月にリーマンブラザーズの破綻を誘引した。そして世界は100年に一度ともいわれる同時不況に突入していく。世界金融危機を経て、世界はグローバル資本主義に疑問を持ちはじめた。ソーシャルメディアも普及し、企業は強く社会性を問われる存在となってゆく。東京中央電気でも今までと異なる価値観が求められはじめた。そんな中、ついに半沢直樹の孫が社長に就任する。

 2010年、世界金融危機で120億円もの巨額損失を計上した東京中央電気では、大和田社長が引責辞任し、代わりに半沢直樹の孫が社長を引き継ぐことなった。半沢社長は金融危機を目の当たりにして、大和田派閥と価値観を異にしていた。時を同じくしてソーシャルメディアの登場し、世界に浸透していく。人々は深くつながり、顧客や社員、地域の人々がボーダレスにコミュニケーションするようになった。透明性の時代が到来したのだ。企業はもはや裏表のある行動をとることができない。半沢社長も企業の社会性について強く意識しはじめた。社会との共存共栄を目指すこと。マクロ視点(事業視点)も重要だが過信してはいけない。ミクロ視点(人間視点)を合わせ持ち、何よりバランスを大切にすること。フラットになった世界に、会社の組織も合わせていかなくてはいけないこと。若き半沢社長はそれらを直感的に理解した。同社は第二創業を決意し、新社長のもと、社員たちは険しくも新たな道のりを歩み始めた。

 金融危機は、結果的にマネジメントのバランスを適正化した。ミクロ視点(人間視点)では、持続性を求めてイノベーションとリーダーシップという二つのテーマに向かいはじめた。またソーシャルメディアの登場などで、ソーシャルキャピタルやネットワーク論といった社会学に基づく経営理論も注目されている。

 一方、マクロ視点(事業視点)では、自社利益を最大化するための利己的な戦略論から、社会との共存共栄を目指す経営論に力点が移りつつある。戦略論の騎手だったマイケル・ポーターが2011年に提唱したCSV(Creating Shared Value、社会との共通価値)という考え方がその流れを象徴している。

 企業はもとより社会的な存在であり、社会との共通価値を生み出す使命を持っている。そして、事業と人間、経済人と社会人、数字分析と人間関係。これらは切ろうとしても切ることはできない。2つの視点が1つになって、初めて完成された経営システムになるのだ。

 冒頭で紹介した映画『モダン・タイムス』は、フォード社の工場を見学したチャップリンが、その光景にインスパイアされて制作された映画だった。生活を豊かにするはずの機械が、逆に一般市民を苦しめているのはなぜだろうか。彼の問題意識はそこにあった。

出所: 『モダン・タイムス』チャールズ・チャップリン
出所: 『モダン・タイムス』チャールズ・チャップリン

 そもそも、マネジメントは人々を幸せにするものであるべきだ。幸せにすべき対象は株主だけではない。また財務的な数値は、企業が継続するための手段であって目的と考えていけない。社員の幸せ、顧客の幸せ、取引先の幸せ、地域社会への貢献、そして持続的に成長するための利益。マネジメントの本質は、ビジョンとバランスの技術といっても良いだろう。

 マネジメントの原点となったフレデリック・テイラーは「今までは人が第一だった。これからはシステムが第一となる」と語り、工業化社会の幕開けをけん引した。それから100年の時を経て、世界の人々はソーシャルメディアで協調のパワーを手に入れた。透明な時代の中で、僕たちは「人中心のシステム」を創造すべく、新たな岐路に立たされている。

 規律から自律へ、統制から透明へ、競争から共創へ、機能から情緒へ、利益から持続へ。すべての人に貢献し、持続可能な経営を求めて。マネジメントが持つべき価値観は確実に変わりはじめている。

*1: ホーソン実験

  1924年から1932年にかけてエルトン・メイヨーらが「ホーソン実験」を行った。彼らは工場の生産性を向上させるために、さまざまな科学的施策を投入する。照明や温度、騒音などの物理環境、休憩時間などの作業環境、インセンティブ制度の変更など、多様な要因を一つずつ変化させ、その効果を検証した。しかしながら、実験結果は彼らの予想を覆すものだった。施策によらず、すべてのケースで生産性が向上したのだ。なぜ、生産性が向上したのだろうか。メイヨーはその理由を「労働者たちがこの実験の意図を知っており、しばしば意見や提案を求められていたことにある」と推測した。職場においては、経済的・物理的な動機づけより、社会的・心理的動機づけの方が生産性に大きく影響するという考え方だ。このホーソン実験をもとに生まれた「人間関係論」は、ミクロ視点のマネジメントの原点となるものだ。

 以下は筆者からの編集後記です。

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斉藤 徹
ループス・コミュニケーションズ
1985年3月慶應義塾大学理工学部卒業後、同年4月日本IBM株式会社入社、1991年2月株式会社フレックスファームを創業。2004年同社全株式を株式会社KSKに売却。2005年7月株式会社ループス・コミュニケーションズを創業し、ソーシャルメディアのビジネス活用に関するコンサルティング事業を幅広く展開。ソーシャルメディアの第一人者として、ソーシャルメディアのビジネス活用、透明な時代のビジネス改革を企業に提言している。講演回数は年間100回を超える。「BEソーシャル ~ 社員と顧客に愛される5つのシフト」「ソーシャルシフト ~これからの企業にとって一番大切なこと」「新ソーシャルメディア完全読本」「ソーシャルメディアダイナミクス」など著作は多数。

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