しかし、目的を達するための「手段」として私たちの個人情報を狙わない保証はどこにもありません。これまで、例えばとある企業の行動が自分たちの逆鱗に触れたことを相手に思い知らせるため、当該企業のユーザー名簿を故意に流出させた事例など、枚挙にいとまがありません。
この手の諍いの厄介な所は、こうした「流れ弾」的な被害を受ける可能性を常にはらんでいる点にあります。たまたまその企業のサービスを利用していたから、たまたまその国に生まれたからというレベルで被害を受ける可能性があるわけですから、もし現実に発生したら極めて理不尽だと感じる人が多いのではないでしょうか。
NSAが展開していた「PRISM」プログラムや日本での特定秘密保護法や日本版NSC(国 家安全保障会議)関連の諸問題など、これまでの事例がその過程も含めて正しかったかどうかは別にしても、公的な機関や国家にとって、「自衛」に代表される国民の「生命と財産を保護するための施策」は極めて重要です。
しかし、例えばマイナンバー制度は、現状でも賛否両論です。この手の国家による共通番号制度は他国でも検討され、すでに施行されているケースもあります。一方、こうした共通番号制度については、導入の是非はもちろんのこと、導入するにしても「どういった範囲まで共通利用するのか」という点において対応はさまざまです。例えば既に国民IDカード制が導入されているイギリスでは、現状は「国家が国民の個人情報を収集することは人権に抵触する」という人権侵害の考え方が強く、意見の大勢は廃止の方向へと向かっているようです。
また、共通番号制度を是とする国の中でも、例えばスウェーデンなどでは全国民の個人番号と住所、課税所得などはすべて公開情報であり、誰もが自由に詳細を閲覧可能な状態にあります。個人情報に関して役所への届け出だけでなく、電話料金や車の購入、離婚した相手への慰謝料や養育費、銀行口座の開設や料金の滞納の記録などすべてが公開情報として扱われます。
スウェーデンやノルウェー、フィンランドなど、個人所得まで公開しているこうした国々では、役所に届け出ていることを隠すべきでないと考えるオープンな気質や、個人主義的傾向が強い国民性も相まって、透明性を持たせることが当然と考えている人が多数派のようです。もしかすると、同姓同名の人が多いことも理由の1つかもしれません。
これらの国は社会保障が極めて充実しており、その反面として財源となる勤労所得、金融所得などに対する課税率が高い国としても知られています。個人所得を公開する大きな理由の1つには、このように充実した社会保障を受ける人の中に課税漏れがあってはならないという考えもあるようです。
こうしたケースでの大きな問題の1つは、「なりすまし犯罪」の横行が挙げられます。あらゆる個人情報が公開されていれば、当然他人になりすますハードルは極めて低くなり、悪意ある者が動きやすくなります。こうした問題点は、アメリカなど、ほかの導入国でも大きな悩みの種となっているようです。
後編では、日本の「マイナンバー制度」について情報セキュリティの観点から解説します。
- 中山貴禎
- トヨタや大手広告代理店など、さまざまな業界を渡り歩き、2010年1月よりネットエージェント取締役。機密情報外部流出対策製品のPM兼務。クラウド関連特許取得、米SANSにてトレーニング受講等、実務においても精力的に活動。
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