もう一度、日本のものづくりに戻ろう--日産GT-R開発した水野氏の講演から - (page 2)

大川淳

2014-03-03 11:46

ドイツ車のブランド力はなぜ高いのか

 「自動車の世界では、トップブランドといえばほとんどドイツ車」と、水野氏は指摘したうえで「ベンツ、ポルシェ、フォルクスワーゲンなどはトップブランドだが、ブランドとしてすべてのドイツ車が成功しているわけではない。外資が入っているところは、ブランド力が弱いのではないか。ドイツ車としてのブランドは、ドイツの人と文化でこそ作られている」と話す。人と文化にトップブランドつくりの鍵があるというわけだ。


 ここで水野氏は海外生産対応に警鐘を鳴らす。「海外で生産するとなると、コストの低さだけが重視され、技術レベルは低下する」。海外での生産はコスト低下に伴い、販売価格も下落へと導く。国内で生産すればもともとのコストの差により価格は下げられない。従来の日本の品質を維持し、製品の付加価値が上がっていけば価格競争に巻き込まれることはないというのが、水野氏の考えだ。ところが「グローバル化により、日本はこれまでの手法を変えてしまった」(水野氏)。結局、コストだけを追うと、価格は抑えられるものの、どの製品も違いがなくなる。水野氏は「付加価値は違いをつくることだ。違いに価値がある」と述べ、国内生産により付加価値の高い製品をつくることが重要であるとの見解を示した。

想像力が付加価値につながる

 では、付加価値とはどのような本質をもっているのか。「ブランド品とは、人に自慢できるぜいたく品であるため、価格ではなく“時間”が重要になる。時間の経過とともに価値が下がらないのが恒久ブランド品だ。恒久を考えるのなら時間軸で見るべきだ」。さらに、水野氏は「開発当初は原価を決めない」と語る。たとえば、販売価格100万円、原価60万円との仕様が決定すると「営業部門も工場も、原価にばかり目を向け、価値よりも原価をターゲットにしてしまう。だから、(そのようにして開発された商品が)販売価格100万円となると、(価値に見合う価格ではないとみなされ)もっと下げろと言われることになる」(同)からだ。付加価値を向上させるためには、最初に原価ありき、との原則は採らないというのが、水野流だ。

 付加価値の高い、恒久ブランドを創造するには、どうすればいいのか。人が何に価値を感じるかという、本質を知ることや、想像力が鍵となる。「人の想像力はすばらしいものだ。無限の力があり、不可能はない。それを実現しようとする場合に差がでるというだけだ」と水野氏は指摘する。ノートをもち、さまざまな情報を書きとどめるのは、みんながやっていることでごく普通のことだ。しかし、それだけにとどまるべきでないと水野氏は主張する。「(情報などを)ノートに記した瞬間、それは過去のものとなる。だが、頭に入れれば、未来に生かすことができる。ノートをどう使いこなすのか。単なる過去の記録にしてしまうか、未来の創造のために使えるかが、変革のために求められる。

 水野氏の発言は、その大きな実績に裏打ちされた強い自信に満ちている。とはいえ、常識を覆し正統である手法とは逆の発想で行動することは、勇気がいる。誰もが同じことをできるかと言えば難しい。しかし、示唆に富んでいる。組織のさまざまな局面で、課題、問題が発生した場合、いや、個人であってもそれらを解決するためのヒントが随所にちりばめられている。

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