プライスウォーターハウスクーパース(PwC)は、米国を中心にした海外訴訟などで必要とされる電子証拠開示(eディスカバリ)を日本国内から支援する専門組織「eディスカバリー&フォレンジックセンター」を8月1日から開設する。訴訟のほかに海外の規制当局の調査で必要となる第三者からの開示にも対応できる。
PwC シニアマネージャー 池田雄一氏
新設するeディスカバリー&フォレンジックセンターは、業界別に設置されたコンサルタントや外部の弁護士事務所と連携し、データ分析や裁判所に提出するドキュメントなどをレビューする。eディスカバリを取り巻く法規制などに精通した専門家15人が、世界各地のPwCのフォレンジックサービスチーム約2200人、外部の弁護士事務所と連携する。
平時から訴訟や規制当局の調査に対する準備体制などについてもコンサルティングする。今回のサービスでは、日本国内のデータセンターにクラウド基盤を置いて、海外のeディスカバリの案件に対して、日本国内から係争支援体制を構築する。
米国の裁判では、訴訟相手から要求される文書などを証拠として開示する必要がある。2006年からは電子的文書も対象となり、要求された電子証拠を開示しなかった場合、「証拠を隠している」とみなされ、敗訴する場合もあり得る。
このeディスカバリに加えて、現在では、米国でビジネスを展開する海外企業に適用する「連邦海外腐敗行為防止法(FCPA)」という課題もある。このFPCAによって、多くの日本企業が価格カルテルなどに関連して規制当局からの調査に巻き込まれ、当局から法律違反とされるケースも出てきている。
FCPA違反の嫌疑をかけられた際、eディスカバリで開示要求されるのは、PCやUSBメモリ、スマートフォン、サーバ、データベース、クラウド、ソーシャルメディア、手帳、書類などのデータであり、当局が設定した期限までに提出する必要がある。
日本では馴染みのないeディスカバリへの対応に日本企業は苦戦しており、数億円から数十億円もの課徴金を課せられているケースも少なくない。
PwCでシニアマネージャーを務める池田雄一氏は「日本のシステムはeディスカバリに対応しているのが少なく、データやドキュメント裁判や調査に有利な形で提出するのが難しい」と指摘した。それではeディスカバリーに対応したシステムやツールとはどんなものか。
「eディスカバリの対象者が20~30人になった際に備え、一定期間のメールや文書データなどを抽出する機能が備わっているかがポイントとなる。データを抽出するだけで時間がかかっていては(抗弁に必要な)データを分析できない。米国事業者の提供するソフトやツールではこのような機能がついていることが多いが、日本の事業者のものは対応しているケースが少ない」と説明した。
米国でビジネスを展開している企業、生活に根ざした、デジタルカメラや車などを販売している、つまり売り上げが大きい企業は対象になりやすいという。
日本でも大手総合商社の丸紅がインドネシアの国会議員に贈賄を送ったとして、FCPAなどに違反したと認定され、90億円の支払いを命じられた。2013年3月には古川電工やデンソーなどの幹部数十人が有罪とされ、懲役刑とされたケースもある。このほかPL(製造責任)、契約違反などさまざまな訴訟リスクがあるとした。
日本企業の海外投資は増加を続けている。だが、FCPA関連で支払った和解金のトップ10のうち8つは海外企業。米当局は海外企業への規制を強めている。