官民で情報を共有する難しさ
「社会にとってテクノロジは諸刃の剣だ。社会をよくする一方、貧困を産み出し、想像もしなかった新たな課題を生み出す。その1つがサイバー犯罪だろう。テクノロジーが悪用され、国家枠を超えて被害を拡大させている」
11歳からシリコンバレーで育ったRice氏はITにも造詣が深い。「(自分は)ITの恩恵を受けている」と語る一方で、サイバー犯罪が高度化している点に警鐘を鳴らす。
「サイバー犯罪を取り締まる国際的な枠組みは確立されていない。サイバーセキュリティは過去の犯罪とは異なり、官民の区別がない。そのため、政府が対応するのが難しい分野だ」(Rice氏)
例えば、ハッキング被害にあった場合でも企業はその情報を共有するとは限らない。自社のビジネスに関する情報を政府と共有するかといえば、その対応は難しい。企業にとっては顧客のプライバシーの問題もある。世界各国の政府は、こうした問題に対処できる組織体制になっていないというのだ。
Rice氏によると、米国内でもサイバー犯罪を取り締まる組織の枠組みは決まっていないという。一国の中でも枠組み作りは一筋縄ではいかない。それが(利害関係が対立する)国家同士であれば、枠組み作りはさらに困難を極める。今、世界は国際的なサイバー犯罪にはまったく対応できていない」(Rice氏)。
さらに同氏は、現在のサイバー脅威は、「単独ハッカーによる未知の攻撃」「無法国家(含テロリスト)の傍若無人な振る舞い」「国家間の攻撃」であるとし、「特に国家間の攻撃は発生しにくいが、外交を無視した水面下での攻撃を超大国が行えば、世界は混乱する」と指摘した。
こうしたサイバー攻撃による被害の防止には、セキュリティ対策技術の活用が有効と説いた。同時に、国際的な仕組みを設けて対応しなければならない。Rice氏は、「この課題に米国がどのように関わっていくのか、または関わるべきではないのかは答えが出ない」と語り、講演を締めくくった。