リアルタイムでデータの鮮度を保つには“霧”が必要
工場などがつながった後も大事だ。つながったことにより得られたデータを分析し活用する必要があるのだ。この部分はシスコにはまだそれほどイメージがないかもしれない。しかし、同社はすでにHadoopなどを活用する分析基盤のソフトウェアのラインアップも揃えており、SAPなどとも積極的に連携している。
「つなぐことで得られるデータ量が増え、種類が多様化します。この2つをさばけなければ製造業のビッグデータ活用になりません。そのためには分析環境をいかにして統合できるかが重要です」(木下氏)
カメラの映像などのデータも入ってくるので、非構造化データをどう扱うかが鍵になる。そのためには、分析の前工程の見直しが必要だと木下氏は言う。そして、従来は溜めてから分析だったが、IoT、IoEではそれだと間に合わないことも多々ある。製品の品質問題などはなるべく早く把握したい。そのためリアルタイムもキーワードとなる。
リアルタイム性を確保するには、「すべてをクラウドでに上げてからだと意味付けするのが遅くなります」と木下氏。そのため、データを生成したところのなるべく近いところでメタデータを付け意味づけする必要があると指摘する。それをシスコでは「フォグコンピューティング」と呼ぶ。これは製品としても実現しており、シスコの産業用ルータの中でデータの前処理をすることがすでに可能となっている。
IoTとフォグコンピューティング(資料提供:シスコシステムズ)
このフォグコンピューティングは、シスコだけが提唱してるものではない。IIC(Industrial Internet Consortium)でもフォグコンピューティングの標準化が進められている。シスコから7階層のモデルを提案し、IICの中でそれが受け入れられたとのこと。IICの中での正式名称は「エッジコンピューティング」となっており、括弧付けでフォグコンピューティングと表現されている。今後は、このフォグコンピューティングの領域にも、シスコは力を入れることになる。
つなぐだけなら難しくない--セキュリティが課題
製造業は、IoTやIoE活用を進めやすい産業と言えるだろう。産業分野ごとにつながるソリューションは異なり、IoTやIoEはそれぞれに最適なものを提案する必要がある。「産業分野ごとにIoT、IoEのソリューションを作り上げているところです。これはシスコだけでやる部分もあれば、パートナーとやる部分もあります」(木下氏)
木下氏はまた、あらゆるものをつなぐのはそれほど難しいことではないとも言う。課題となるのはセキュリティ。IoT、IoEの世界ではITシステムのセキュリティの考え方が通用しない。たとえば端末側ではウィルス対策やアクセスコントロールができないと考えたほうがいい。「センサなどにはリソースがないので、ウィルス対策はできません」と木下氏。
もう1つ、対象となる数が大きく違う。スケールが2桁くらいは変わってくる。そのスケールした環境でも確実にセキュリティが担保できなければならない。さらに、製造機器などは10年くらい動いているのは当たり前だ。それらにはパッチを当てられないと考えておいたほうがいい。こういう状況の中でセキュリティを担保するために、シスコではネットワークでセキュリティを施す。ネットワークがインテリジェンスを持ってセキュリティ対策する仕組みを考えている。「Network as a Serviceで、ネットワークが自律的にセキュリティ対策するような仕組みです」(木下氏)
つなぐことには圧倒的な強さを持っているシスコ、そこから発展した形でIoT、IoEの世界を捉え新たなソリューションに作り上げている。フォグコンピューティングやネットワーク自体で自律的にセキュリティ対策をするといった発想は、まさにつなぐことに特化してきたシスコならではのものだろう。技術的につなぐことはもちろん、つなぐことで何が変わるかを考える。それこそがIoEの本質と言えそうだ。