「日本とアジアを結ぶ国際情報通信ハブへ」
沖縄県がITを基盤にした大規模な構想をぶち上げている。中国や韓国、台湾など東アジアの真ん中に位置する地の利を生かし、日本とアジアの架け橋になることを目指しているという。
狙いは、県としての経済的自立。沖縄県商工労働部情報産業振興課で情報・金融産業振興班の班長を務める大城勇人氏は「観光産業の規模が大きいが、それだけでは将来は立ちゆかない」と話す。
沖縄県商工労働部情報産業振興課で情報・金融産業振興班の班長を務める大城勇人氏
アジアの国際情報通信ハブをつくるため、平成24年に掲げた10年計画が「おきなわSmart Hub構想」だ。2015年中に、首都圏と香港、シンガポールを結ぶ海底光ケーブルに沖縄も接続する予定。アジアをまたに掛けた、大容量で低価格の通信ネットワーク提供に向けて、大きな一歩を踏み出そうとしている。
情報通信分野への沖縄の強力な舵取りは、アジアのハブとしてはもちろん、地方創生への取り組みとして、日本のさまざまな地方自治体にとっても参考になりそうだ。
産業の柱の立ち上げという観点から、沖縄県庁や同県データセンターの取り組みを紹介する。
まず数字を見てみたい。平成26年まで順調な右肩上がりを見せている。沖縄に新規に立地した情報通信関連企業の数は、平成15年の67社に対して、平成27年は346社。新規雇用数は同6973人に対して、同2万5912人と増えている。
具体的には、IT企業では日本IBM、日本オラクル、NTTグループ、NEC、日立製作所、IIJ、KDDI、シスコシステムズなど、金融では野村證券、Citi、SMBC日興證券など多くの企業が、新たに沖縄に拠点を構えるようになった。
沖縄に新規立地した情報通信関連企業数の推移(出典:沖縄県)
商工費予算の3割がIT関連
県庁商工労働部の商工費予算でも、情報産業振興費すなわちIT関連予算が、31%と全体のおよそ3分の1近くを占めている。大城氏が「自ずとITへの取り組みの重要性が分かる」と話す通りだ。
背景に、低い平均年齢と人口増加を背景にした豊富な労働力人口が挙がる。行政支援や情報産業振興地域制度などの特区制度も後押ししているようだ。また、沖縄が、本州とは地理的に別の大陸プレートに載っていることで、震度5強以上の地震がほとんど発生していないといった事情もあるという。
沖縄には地理的な特性を含めた立地面での優位性があり、今後の発展を期待する声が多いものの、懸念もある。1つは、2万5912人という新規雇用者のうち、7割強にあたる1万8000人程度がコールセンターのエージェントである点が1つ。今後、ゆるやかに減少が見込まれる職種である上、賃金も高くなく、スキル面での発展性が小さい。
県としては、ソフトウェア開発やコンテンツ制作、情報サービス業などの比率を高めていく考えだ。中でも、データセンター分野には、特に大きな期待を寄せている。データセンター自体は雇用創出効果が高いと言えないが、金額面の経済効果やハイテク人材の育成の基盤になる。
急速な技術の変化にエンジニアが対応できない可能性や、開発拠点のグローバル化によってスキルがコモディティ化することなどについても、沖縄県は今後取り組むべき課題として認識している。
2011年に恩納村に開設した沖縄科学技術大学院大学(OIST)から。先端科学技術を支えるハイパフォーマンスコンピューティングを可能にするデータセンターを設置している
「海底ケーブルへの接続待ち」
そうしたことを背景にしながら、具体的には、基盤となる3つのクラウド環境を構築しようとしている。1つは、沖縄本島の中部に建設したデータセンター「沖縄情報通信センター」だ。
同センターを含め、県内にあるデータセンターを連携し、まとまったクラウド基盤を提供する「沖縄クラウドネットワーク」の整備にも着手。前述の海底ケーブルと合わせることで、情報通信関連産業の高度化と多様化を図る。
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地震に強いという特性を生かし、他の都道府県との同時被災を避ける企業のバックアップサイトとしてなど、県として、データセンター事業に確実な需要があることを手応えとして感じているという。
名護市に建築したデーセンター「沖縄情報通信センター」では、300ラックを収容できるスペースに現状100ラックを設置しているが、まだほとんど稼働していない。
「現状は、潜在ユーザーが海底ケーブルの沖縄接続を待っている状況」(沖縄データセンター総務部グループマネージャの村林宜昭氏)とのこと。海底ケーブルにより、予定通りに高速で大容量かつ低価格なネットワークが確保できれば、利用企業がすばやく増えていくと見込んでいる。