前回は「多くのIT部門に欠如する自己評価能力」について述べました。国内企業のIT部門に不足しているもう1つの機能が、マーケティング機能です。IT部門は、やるべきことはしっかりやっているのに、アピール下手だと言われるのもマーケティング機能の不足に起因しています(連載バックナンバー)。
IT部門に欠如するマーケティング機能
一般的に、IT部門のミッションや業務領域に 「マーケティング」を掲げている企業はほとんどないでしょうし、IT部門の運営とマーケティングは、一見無関係のように思われるかもしれません。
しかし、ITのビジネスにおける重要性が増す今日では、IT部門にとってユーザー部門や経営者を顧客と見なしたマーケティング機能が不可欠となっています。
さて、一般的な企業や製品のマーケティングには、インバウンドとアウトバウンドの活動があります。アウトバウンドのマーケティングは、情報発信を意味し、一般的なマーケティングの世界では広報・宣伝活動に該当します。一方、インバウンドのマーケティングは、情報収集を意味し、顧客のニーズや課題を迅速に察知する役割を果たすもので、マーケットリサーチやマーケットインテリジェンスに属する活動です。
これをIT部門にあてはめて考えてみましょう。IT部門のマーケティング活動の対象は、ユーザー部門や経営者であり、社内マーケティングということになります(図1)。
アウトバウンドのマーケティングでは、先進技術の活用を啓発したり、さまざまなIT戦略施策の進捗状況や成果を公表するようなことが挙げられます。また、前回述べた自己評価機能によって、評価したIT部門の運営の健全性、コストの妥当性、ビジネスへの貢献度などについて説明責任を果たすことも、重要な利害関係者(ステークホルダー)への情報開示という意味でIR(Investor Relations)活動であり、重要なマーケティングコミュニケーションの1つと言えます。
一方インバウンドでは、ユーザー部門の課題やITへのニーズを聞き取ることに加えて、これまで構築した情報システムの利用度や満足度に関するフィードバックを得ることも重要なマーケットリサーチ活動の1つです。
図1.IT部門のマーケティング機能(出典:ITR)