救急医療現場にドローンやウェアラブル機器などのITを導入して救命率の向上を目指すプロジェクト「Project Hecatoncheir(ヘカトンケイル)」のメンバー6人が、1月17日、一般社団法人 救急医療・災害対応無人機等自動支援システム協議会(EDAC:Emergency medical and Disaster coping Automated drones support system utilization promotion Council)を設立した。プロジェクトの活動を踏襲しつつ、法人格を持つことで、IT開発ベンダーと消防現場との連携を加速していきたいとする。
EDACを設立したProject Hecatoncheirのメンバー
Project Hecatoncheirは、医療、ドローン開発、クラウド技術、行政の専門家ら6人が発起人となり、災害・救急用の自動無人航空支援システムの実現に向けた研究開発を行うプロジェクトとして2015年9月9日に発足した。国際医療福祉専門学校 専任教員(救急救命士)の小澤貴裕氏をプロジェクトリーダーに、東京大学発ITベンチャーでクラウドやAI関連の技術を有るリアルグローブ 代表取締役 大畑貴弘氏、ドローン開発者の岡田竹弘氏、佐賀県庁職員の円城寺雄介氏、東京医薬専門学校 臨床工学技士科 教員の沼田慎吉氏、ドローン専門サイト「DRATION」を運営する稲田悠樹氏が参加する。
プロジェクトの目的は「救命までの時間の短縮」だ。リーダーの小澤氏によれば、心停止から社会復帰のための要件として「救命の連鎖(Chain of Survival)」という概念がある。これは、(1)心停止の予防、(2)素早い119番通報、(3)素早い心肺蘇生と除細動、(4)救急隊や病院での処置—の4つのチェーンがつながることを意味する。しかし、「現在の日本では、2番目の通報と、3番目の心肺蘇生が市民に委ねられており、ここを迅速化することが難しい。つまり、チェーンが切れてしまっている状態だ」と小澤氏。
AEDを運搬するドローン
AEDを取り付けて救命現場上空に到着したドローン。上空から現場の様子を消防担当者に伝える
ドローンはAEDを運搬したあと、消防担当者に現場映像映を伝える
このチェーンをつなぐために、同プロジェクトでは、ウェアラブル機器やスマートフォンに搭載されたセンサを活用した自動通報、ドローンを飛ばして必要な医療機器を現場まで運ぶ仕組みの研究開発を行っている。
センサ情報、ドローンによる医療機器運搬機能と現場映像データを組み合わせることで、例えば、(1)ウェアラブル端末で心肺停止を検知すると自動的にスマートフォンから位置情報を付与して119番通報し、アラームを鳴らして近隣の人に知らせる、(2)通報を受けた消防担当者が位置情報で示された場所にドローンでAED(自動体外式除細動機)などを届ける、(3)救急隊が到着するまでの間、医師が患者の映像を観ながら遠隔から助言するーーといったことが可能になる。
Project Hecatoncheirは、上記のようなシナリオの実現に向けて活動してきたが、「消防の現場サイドと、開発サイドに情報の壁があり、当初思っていたほど取り組みが加速しなかった。消防現場にはドローンなどの新しいテクノロジの情報が伝わらず、開発現場には消防からのニーズが届かないために開発の方向性が決まらない」(小澤氏)。より早く、ビジョンを実現するためには、双方が参加して情報を共有する場が必要だとして、プロジェクトをEDACとして法人化することを決めた
EDACでは、消防機関や医療機関を「ユーザー会員」、ドローン開発ベンダーなどを「メーカー会員」として各団体に登録してもらい、ユーザー会員が提示した課題と、メーカー会員が有する技術のマッチングを行う。年度途中での予算要求が難しい行政機関の参画を促すために、行政機関と行政機関に属する個人の会員登録は無料にした。そのほかの会員の年会費は5000円を予定する。会員のほかに、資金支援や技術支援をする企業・団体も募っている。