著作権侵害世代のジャーナリストが紐解く、音楽が無料になった理由とは

Wendy M Grossman  (ZDNet UK) 翻訳校正: 沙倉芽生 2016年01月22日 06時00分

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 米国で2001年に大学を卒業した人たちは、世界を変えたにも関わらず、その変革を起こした張本人とはあまり考えられていない。1997年に大学に入学した彼らは、ブロードバンド環境の整った学生寮に住み、2年生が終わる頃にはNapsterが登場、違法コピーされた楽曲が無料で入手できるようになっていた。卒業する頃には、そのNapsterが裁判所の差し止め命令により閉鎖。Napster祭りは終わったが、ダウンロードの世界は始まったばかりだった。


How Music Got Free: The End of an Industry, the Turn of the Century, and the Patient Zero of Piracy ● 著者:Stephen Witt ● 出版社:Viking ● 304ページ ● ISBN 978-0-52542-661-5 ● 20ポンド / 27.95ドル

 ジャーナリストのStephen Witt氏は、まさにその時期に学生時代を送った人物で、同氏はこの世代を「著作権侵害世代」と呼んでいる。ある時、Witt氏はふと疑問に思った。あの時期に自由に無料でダウンロードできた楽曲はどこからやって来たのだろうか。また、どうやってオンラインに流れていったのだろうかと。

 Witt氏による著書「How Music Got Free: The End of an Industry, the Turn of the Century, and the Patient Zero of Piracy」(「音楽はなぜ無料になったのか:業界の終結、世紀の変わり目、そして著作権侵害第一号者」の意)にて同氏は、その疑問に対する答えを、音楽業界と同業界の経済、テクノロジ業界とデジタル音声圧縮に関する研究の成果、オンライン環境でのコピー音楽配信と海賊版ソフトの出所といった各方面からストーリーに仕立て、解説している。

 各ストーリーにはそれぞれ主人公が設定されている。業界エグゼクティブのDoug Morris氏は、アーティストの才能よりも売上だけを信用しており、音楽業界で著名な企業3社を一時期経営したことのある人物だ。Fraunhofer InstituteのKarlheinz Brandenburg氏は、10年以上音響分野の研究を続け、MP3ファイルに没頭してフォーマットを完成させようとした。そしてDell Glover氏は、この原稿の執筆時にはWikipediaに掲載されていないが、ノースカロライナ州シェルビーに拠点を置く音楽会社Polygramのプレス工場に務めていた人物で、リリース前のアルバム2000枚を漏えいさせ、2007年9月に逮捕されている。Glover氏は有罪判決を受け、連邦刑務所で3カ月間を過ごした。4人目の主人公は、著者であるWitt氏本人で、音楽をダウンロードしている多くのユーザーの代表だ。同氏がダウンロードした音楽は、1500Gバイト分にものぼっている。

 Glover氏の話は、同書を読んで驚く内容のほんの一部に過ぎない。音楽戦争関連の登場人物の中で特に目を引くのは、1998年から2003年まで全米レコード協会(RIAA)の最高経営責任者を務めていたHilary Rosen氏に関する新たな見解だろう。Witt氏によるとRosen氏は、著作権保護の強化や強制、不正ダウンロードした消費者に対する訴訟、Napster、AudioGalaxy、Groksterなどのサービスに対する法的救済策の追求といったRIAAの施策にすべて反対していたという。実はRosen氏は水面下にて、こうした施策に反対していた人たちと同じことを主張していたとWitt氏は明かす。例えばNapsterと契約し、違法ではない良いサービスを構築しようとしたり、訴訟によって消費者を遠ざけないようにしたりといったことだ。しかしRIAAは、会員であるレコード会社の意向を汲み取って活動するほかなかった。

 この多方面からの話が、非常に巧みに語られているのが同書である。中でもBrandenburg氏に関する話は、最も皮肉って書かれている。特許を取得したソフトウェアの報酬だけが、同氏の研究を継続する資金源となっていたが、その試みは何度も失敗していた。ソフトウェアを無料でオンラインに投稿することだけは最終的に成功したが、実際に同氏を金持ちにしたのは、同氏自身は否定しているものの、ほとんどは知的財産に関する法律を破ることによるものだった。一方、70歳になったMorris氏は、多くの人から時代遅れだとされていたが、YouTubeなどのサイトから広告費を上げることを早い時期から始め、古い音楽プロモーションビデオがつまった自社のストアを利益の出るものへと変革させた。Glover氏は、トラック工場で仕事を見つけ、サイドビジネスとしてコンピュータ修理ができる程度にコンピュータサイエンスを学んだ。Witt氏は、Glover氏のSpotifyを購読しているという。

 同書が少しひっかかるのは、ダウンロードが音楽業界に与えた影響について書かれている部分だ。あるセクションでは違法ダウンロードが音楽業界の収益構造を破壊したとの意見を受け入れているかと思えば、一部ではその考えを疑問視しているようにも見え、音楽の好みの変化やその経済に業界がついていけなかったという意見も引き合いに出している。確実に言えるのは、LPやCDに代わってiPodやダウンロードで音楽を楽しむようになったことで、ユーザーはアルバムではなく1曲ずつ音楽を聴くようになったということだ。

 同書の英国版には、「ある世代の人たちが全員同じ犯罪を犯すとどうなるか」というサブタイトルがついている。Witt氏は、この疑問に対する答えを短期的な視点でしか答えることができず、長期的にどうなるかは未知数だ。その答えは、1970年代に当時の世代全体が犯したマリファナ犯罪のその後のように、何らかの合法化が必要となってくるだろう。

この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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