フィンランド発祥の世界最大級のスタートアップイベント「Slush Asia 2016」が今年も幕張メッセで5月13~14日に開催。起業家を志す人への講演や60社のスタートアップが英語でプレゼンテ―ションをするピッチコンテストに歓声が沸いた。
世界を変え得る起業家やイノベーターは若者に憧れられるべき存在という考えから音楽フェスのような舞台でプレゼンテーションをするという
Slush Asiaを主催するAntti Sonninen氏
オープンイノベーションなど連携を探る
ブースを出している主な企業は、アクセンチュアやPwCといったコンサルティング企業、リクルート、Googleなど。
各社ともスタートアップとの連携の思惑はさまざまだ。リクルートでは2015年に買収したオンライン学習サービス「Quipper」などをアピール。日本国内向けオンライン学習サービス「スタディアプリ」などを海外の来場者にアピールしたいほか、Quipperなどのエンジニアも探しているという。
英語イベントだけあり外国人の来場者が多かった
Googleはアプリを提供するスタートアップ向けにアプリ開発とそのプロモーションのためのツールを訴求していた。Microsoftはスタ―トアップ支援プログラムとして、無償で開発ツールであるVisual studioやPaaSであるAzureなどを提供する「BizSpark」を紹介した。
コンサルティング会社は、他社との連携を通じて新製品やサービスの開発に取り組む「オープンイノベーション」の加速に力を入れていた。
アクセンチュアでは、2015年12月にオープンイノベーションを推進する組織として「アクセンチュア・オープン・イノベーション・イニシアチブ」を設立。国内外のスタートアップや投資家、顧客の間に入り、2日間で100組のマッチングに挑戦した。また、自社のサービスリストにスタートアップの製品やサービスを追加し、顧客に提案する計画だ。
「販売網や顧客ネットワークを既に持つ企業と、優れた技術やアイデアを持つスタートアップとの協業やM&Aが増えるなどオープンイノベーションの機運が高まっている。企業が独自で新規事業を立ち上げるよりもスピーディかつ持続的にイノベーションを生み出せるからだ」(アクセンチュア)
アクセンチュアのブース国内外のスタートアップ企業と投資家や同社の顧客を2日間で約100組マッチングするという
PwCも2015年7月に設立したイノベーションの創出や活性化を支援する専門組織「グローバルイノベーションファクトリー」を設置。ブースではビジネスパートナーの開拓を目的に、自社のコンサルタントや会計士が、起業やIPOを目指す来場者を対象に、無料のコンサルティングを実施した。
PwCは講演で「この1月~3月期に米国で新規株式公開(IPO)を実施したIT企業はなかった」「大企業によるM&Aが活況しつつある」と指摘。
Twitterがこの一年で株価を37ドルから14ドルに落とすなどIT関連企業の株価の浮き沈みが激しく、米株式市場は安定していると言い難い状態にある。このため、IT企業がIPOを控え、大企業によるM&Aを志向していることがうかがえる。世界的にも、スタートアップはIPOよりも買収されることを望み、大企業はオープンイノベーションのためにスタートアップを買収したいと考えているという意味で、スタートアップと大企業の思惑が一致している。大企業がオープンイノベーションのためにスタートアップと連携したいという構図は今後も続きそうだ。
M&Aばかりがオープンイノベーションの手法ではない。IT企業や外資系企業の出展が多いSLUSH ASIAの中で、異色な存在だったのが日本航空である。
同社は北欧発祥のハッカソンイベント「Junction Asia」に参加したり、いち早くマイクロソフトの3Dホログラフィックコンピュータ「HoloLens」を利用し副操縦士昇格訓練のための補助的なトレーニングツールを生かしたりなど新たな取り組みやテクノロジの採用にも積極的である。
先行きが不透明な時代、企業規模に関係なく最先端のテクノロジを事業に取り込み、環境の変化に適応するために、オープンイノベーションは効率がよい手法と言えるだろう。
Slush Asia2016はそうしたオープンイノベーションを加速する場として大いに機能したのではないだろうか。申込者数は2015年と比較して1000人以上増え、4000人を超えた。今回のイベントは学生を中心に400人以上のボランティアが企画などプロセスの初期から関わり、当日の運営の中心を担っているというが、大きな不備は見受けられず、運営はスムーズであった。