三大メガバンクが展望する、FinTechが変える銀行の姿とは

小林哲雄

2016-07-04 18:06

 6月24日に開催された日経FinTech主催の読者限定イベント「Nikkei FinTech Conference 2016」で、「FinTechは銀行の姿をどう変える? 3メガバンクが徹底議論」と題したパネルディスカッションが行われた。

グループ会社の強みを生かしたイノベーションラボを開催:MUFG


三菱東京UFJフィナンシャル・グループ デジタルイノベーション推進部長 柏木英一氏

 メガバンクのイノベーションへの取り組みとして、三菱東京UFJフィナンシャル・グループ(MUFG) デジタルイノベーション推進部長の柏木英一氏は、まず同社のオープンイノベーションに対する取り組み状況を説明した。

 2015年6月に行ったアイディアコンテスト「Fintech Challenge 2015」では11のファイナリストが選ばれ、その中から現在ZUU Onlineによる富裕層向けキュレーションサービス「FinTech Online」とFinatextによる投資活性化アプリ「Fundect」がサービスを開始しているという。自前でサービスを行うよりも迅速にサービス提供になったスピード感を強調していた。今年から「MUFG Fintechアクセラレーター」を行っており、日本最高のメンターの協力の元で事業化を推進、8月にはデモデーが行われる予定だという。

 さらにグループ傘下にカブドットコム証券やじぶん銀行を持っている強みを生かし、1月にグループ会社主導でイノベーションラボを開催。こちらでは、本社とは切り離してカジュアルにワイワイやろうという方針だという。

モバイル決済、API提供、金融インフラの3分野に注力:SMFG


三井住友フィナンシャルグループ ITイノベーション推進部長 中山知章氏

 三井住友フィナンシャルグループ(SMFG) ITイノベーション推進部長 中山知章氏は、同社が2015年10月にオープンイノベーションを推進する「ITイノベーション推進部」を設立したことを紹介。ここでは、(1)モバイルワレットなどの新しい決済デバイスを活用した次世代購買体験、(2)エンタープライズビジネス向けのAPI提供やIoTの活用、(3)ブロックチェーンやビックデータ基盤を活用した次世代金融インフラなどの研究や開発—の3点に注力しているという。

 具体的な取り組みとしては、IBMのWatsonを利用したコールセンター業務、学術団体との共同研究や産学連携、スタートアップとの協働も行っているという。

CIO主導の横断組織でイノベーション喚起:MHFG


みずほフィナンシャルグループ インキュベーションPT PT長 阿部展久氏

 みずほフィナンシャルグループ(MHFG) インキュベーションPTのPT(プロジェクトチーム)長である阿部久氏は、同社では他の2行とは異なり、CIOが意思決定できる組織横断のPTの形でオープンイノベーションを推進していると説明した。PTが色々なところに手を出して議論をし、既存部署も「PTだから仕方ない」とカオスな状態をうまく使っているという。KPIは収益目標ではなくPoCやソーシングがどれだけ実施できているかと、それによって事業部門に結果を渡せるかを指標にしている。

 例えば、「既存サービスに人工知能を生かせるかどうか」の検討は事業部門が行う一方、「ディープラーニングがどのようなサービスで有効か」という見極めに関しては中長期スパンでインキュベーションPTが追いかけるという組織の使い分けをしているという。

FinTechのスタートアップ企業とどう付き合っていくか

 パネルでは、まず、FinTecnのスタートアップ企業との付き合い方というテーマで意見交換が行われた。

 「全然違うカルチャーと意思決定だが、目指しているところは同じ。『対等のビジネスをしていく』でないとダメ」とMUFG柏木氏。MHFG阿部氏は、「大企業はポートフォリオの一部でも、スタートアップはその部分に命をかけていて、その違いが理解できないとダメ。1人の視点ではバラツキがあるので複数人のキャリアの違う人を組み合わせて、協業の方向性を見てもらっている」と述べた。

 SMFG中山氏は、「技術系スタートアップとうまく連携して、『銀行、スタートアップ、顧客のWin-Win-Win関係』をどう築けるかを考えている。またビジネス系スタートアップでは銀行内の人材育成の面でもよい関係を築きたい」とした。

 また、銀行業界がどのような方向性を目指すのかというテーマに関しては、「個人的な意見だが、金融のライフライン化として、競争するする部分以外は一緒にやっていくことも必要で、特に決済周りはどこでも安全な世界が必要だ」(SMFG中山氏)、「柵がない新しい取り組みならご一緒できる領域も多いので、メリットがあるなら追いかけるべき」(MHFG阿部氏)、「Fintechはまだ遠くのさざなみの状態だが、陸にいて大波に巻き込まれるではなく、われわれが沖でさざなみを起こす存在になりたい」(MUFG柏木氏)といった意見が出ていた。

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