6月24日、日経FinTech主催の読者限定イベント「Nikkei FinTech Conference 2016」が開催された。冒頭の特別招待講演では、世界40の金融機関が参加するブロックチェーンコンソーシアム「R3」を運営する米国R3 CEVのTim Swanson氏が登壇し、「R3が見据えるブロックチェーンの未来」と題して講演した。
米R3 CEV マーケットリサーチ局長 Tim Swanson氏
Swanson氏はブロックチェーンに関して、「Bitcoinによってブロックチェーンという言葉が広まったが、例えば飛行機や自動車でも突然発明されたものではなく従来の技術や発明を組み合わせて製品化されたのと同様に、ブロックチェーンというのも公開鍵やPKIなどの既存の技術を組み合わせたものだ」と説明した。
一方、戦闘機と旅客機は同じ技術の延長線上にあるわけではなく、用途や要求によって作り変えている。金融機関が求めるブロックチェーンも彼らの要求に沿ったものでなければならないと指摘。R3のブロックチェーンへの関心は「暗号化によって保証された共通台帳」という点であり、金融機関向けのブロックチェーンの実現を目指していると述べた。
金融機関がブロックチェーンに興味を示すのは、それによってコストが削減できるのではないかという期待からだとSwanson氏。現在世界で600億ドルが金融アプリケーションに使われているが、ブロックチェーンのテクノロジで30%のコスト削減が見込まれる。
ブロックチェーンのテクノロジを使うアプリケーションはすでに存在するが、Swanson氏が、「多くのアプリケーションベンダーと話をしてみると、金融機関とバランスが取れておらず、おそらく既存のアプリケーションで金融業界が使えるものはない」という見方を示した。そこで、R3では3つのアーキテクチャワーキンググループを設け、ここでユースケースを出してコンセプト実証を行い、有用性を判断しているという。加えて、17~18カ国の法基準に対応させるなど、金融業界で利用できるシステム作りに腐心しているという。
R3の開発はスピーディかつ慎重に進行している
R3では、分散型元帳技術(DLT:Distributed Ledger Technology)で金融取引の元帳の真正性を相互に担保し、金融機関において非中央化された金融サービスを実現する。共通台帳で情報を共有するのでEUなどはレギュレーションがうるさいが、「R3の分散型台帳Cordaならば不必要に共有されず、また規制当局が関心を持つKYC(Know Your Customer:顧客確認)に関しても金融機関が同じ仕組みを使うことでわかりやすくなるだろう」とSwanson氏は説明した。
R3コンソーシアムのタイムライン。現在フェーズ2が進展中
R3のブロックチェーンへの取り組みは、規制が厳しい金融業界を相手にしているにも関わらず、動きが速かった。2014年9月にニューヨークにおいて9社でラウンドテーブル、2015年5月に15社でラウンドテーブルを開催している。これがプリフェーズ1で、現在は50社がメンバーとなりフェーズ2を実施している。「スピーディでありつつも、慎重なリサーチとセキュリティ上の脆弱性については、少なくても18カ月を費やして検証している」(Swanson氏)