富士通研究所、国立大学法人九州大学(以下、九州大学)、福岡県糸島市(以下、糸島市)は、8月24日、自律成長するAIを用いて移住満足度向上を目指す共同実証実験を開始すると発表した。
今回の実験では、移住希望者の好みを自律成長するAIに学習させ、好みに基づいて移住希望者に適切と考える移住候補地の地域密着情報を提示する。糸島市が移住希望者や地域住民インタビューのフィールド提供および移住地域推薦のノウハウを提供する。九州大学マス・フォア・インダストリ研究所富士通ソーシャル数理共同研究部門と富士通研究所は、AI技術の開発および社会科学の知見を用いたAI技術の評価検証を担当する。
自然や景観に恵まれ、福岡市内へのアクセスも良い糸島市では、近年、移住候補地としての注目度が極めて高くなっている。しかし、同市は市域が広く、海、山、田園、市街地、離島などさまざまな地域特性があるため、多様なニーズを持つ移住希望者に対して提示する地域密着情報のミスマッチが懸念されており、移住希望者が望む地域密着情報を的確に提供する仕組みの構築が必要になっている。
一方、この仕組みでは、移住希望者から得られたデータをもとに学習していくAI技術が有効であると考えているが、移住者の意思決定に関して、AIが学習できるデータが少ない、移住希望者から正しいデータが取得しづらい、個人的な重要事項の判断にAIを使用することに対する心理的な障壁がある、といった課題が指摘されている。
今回の実証実験では、この課題を解決するために、自律的に成長するAIを活用し、データが少ない状況でも徐々に学習していくことで、小規模データからスタートできる仕組みの構築を目指す。
まず自律成長AIが移住希望者の特性に適した地域を提示し、それに対して移住希望者が評価を行い、その評価結果を基にAIが移住希望者の好みをさらに学習する。今回の実験では、自律成長AIの活用で、実証前の移住相談と比較して移住希望者の満足度が全体的にどの程度向上するかという効果検証も行う。また、実証実験期間中も移住希望者から得られたフィードバックを基に適宜AI技術を修正し、より良い移住支援システムへと改善していく。
AIの社会受容性に関しては、人間同士の会話を促進するためのAI活用とすることで、AIを使用する際の心理障壁を取り除き、移住希望者の満足度向上を目指す。さらに、実証実験の結果を基に、移住希望者にとっての利用しやすさの観点からも見直しを行う。
糸島市では、今回の実験を通じて、細かな地域密着情報を提供し、移住者の不安解消、周辺住民とのトラブルの防止、生活満足度の向上、地域活動の活発化、住民の転出抑制などにつなげたいとしている。また、九州大学と富士通研究所は、人間の好みや希望といった心理に関する数理モデルとAI技術の融合を進め、移住希望者のマッチングのみならず、多様な社会課題の解決を目指す。富士通研究所は、実証実験の結果から自律成長AIの改善を行い、2017年度中に富士通のAI技術「Human Centric AI Zinrai(ジンライ)」の新技術としての実用化を目指す。
実証実験は、少数の被験者によるAI技術のプレ評価を2016年9月~2016年10月(予定)に行い、2016年11月~2017年3月(予定)の期間で、移住相談の場におけるAI技術の効果検証を実施する。場所は糸島市役所および、国や自治体の主催する全国の移住・定住支援イベント内糸島市ブースで行う。