IBMは3月6日、業界初の商用利用可能な汎用量子コンピューティングシステム「IBM Q」を発表した。同社のクラウドサービスとして提供されるもので、併せてロードマップやAPIなども公開している。
IBM Qは、従来型のコンピューティングシステムでは難しい複雑かつ指数関数的に拡大するような問題に対処する目的で設計された。量子コンピュータの処理能力は、量子ビットの数や量子演算の品質、量子ビットの接続性、並列処理などを含む「量子体積」で表され、同社は商用では最大となる50量子ビットのシステムを今後数年間で構築する計画を掲げる。
IBMが公開した「IBM Q」研究ラボの様子
同社はまず化学分野での活用を見込み、既にさまざまな分子における実証実験を進めているという。将来はより複雑な分子構造に対応して、従来型のコンピュータに比べて高い精度による化学的性質を予測することを目標としている。これにより、新薬や材料の発見につながる分子や化学相互作用の複雑性の解明が期待されるほか、サプライチェーンや物流の最適化、金融データをモデル化する新しい方法の発見、人工知能の強化、クラウドの安全性の向上といった効果が期待される。
IBMは、2016年5月から量子コンピュータをクラウド上で実験的に利用できる「IBM Quantum Experience」を提供している。今回は新たに、5量子ビットによるクラウドの量子コンピュータと従来型のコンピュータを接続するAPIと、最大20量子ビットで構成される回路をモデル化できるIBM Quantum Experienceのシミュレータのアップグレード版を公開した。
IBM Quantum Experienceではこの1年の間に、約4万人のユーザーが27万5000件以上の実験を行っているとし、引き続き産学官によるエコシステムの拡大も目標に掲げる。またIBM Researchのコンソーシアム「Frontiers Institute」には、創設メンバーとして日本からJSR、本田技研工業、日立金属、キヤノン、長瀬産業が参加する。
JSR社長の小柴満信氏は今回の発表について、「イノベーションがタイヤ用の合成ゴムから半導体材料、ディスプレイ材料、ライフサイエンス、エネルギー、環境関連の製品まで幅広い分野で進行している、量子コンピュータによる新しい計算能力が材料開発をどのように加速するかを目の当たりにして、化学業界に永続的な影響を及ぼすことや、当社顧客により迅速なソリューション提供を可能にすることを確信している」とエンドースメントを寄せている。