ITベンダー大手によるAI(人工知能)関連イベントがこのところ相次いで開催された。筆者が興味深く感じたのは、ビジネスモデルが異なる点だ。そこにはそれぞれに思惑があるようだ。
顧客企業との協業でAI活用を進める富士通とIBM
「富士通フォーラム2017」で話す富士通の田中達也社長
「ぜひ当社を“コ・クリエーション(共創)”のかけがえのないパートナーとして選んでいただきたい」――富士通の田中達也社長は5月18日、同社が都内で開催した自社イベント「富士通フォーラム2017」の基調講演で、招待された企業経営者などを前にこう訴えかけた。
富士通が同イベントで最も前面に押し出していたのは、「Zinrai」と名付けたAIの製品・サービス群である。同イベントを機に「富士通のAI戦略」と題して開いた記者会見でも、同社の谷口典彦副社長が「お客様(顧客企業)とのコ・クリエーションが最重要戦略」とし、「AIによる知見をお客様と共有することによって、お客様と共に発展したい」と強調した。
「コ・クリエーション」という言葉に同社の想いが込められているが、ビジネスモデルの観点から言えば、顧客企業との協業、つまりは個々の顧客企業とAI活用を進めていくという形である。
このビジネスモデルは、コグニティブ(認知)技術「Watson」でいち早くビジネスを展開しているIBMと同じようにも見て取れる。 日本IBMが4月27~28日に都内で開催した自社イベント「IBM Watson Summit 2017」では、米IBMのArvind Krishnaシニアバイスプレジデント兼IBMリサーチディレクターが基調講演で、「当社はビジネスに貢献するためのAIを提供し、あらゆる企業に使っていただきたいと考えている」と語った。
また、日本IBMのElly Keinan社長も同じ基調講演で、「日本でもすでに40業種を超える数百社のお客様がWatsonを活用している」と述べ、個々の顧客企業に向けたビジネスが日本でも着実に進んでいることを示した。(関連記事)
「IBM Watson Summit 2017」で話す米IBMのArvind Krishnaシニアバイスプレジデント兼IBMリサーチディレクター
「AIの民主化」を推進するMicrosoftが狙う経済圏拡大
一方、富士通やIBMとビジネスモデルが異なるように見受けられるのはMicrosoftだ。日本マイクロソフトが5月23~24日に都内で開催した自社イベント「de:code 2017」では、米Microsoft AI&リサーチ部門のSteven Guggenheimer(スティーブン・グッゲンハイマー)コーポレートバイスプレジデントが基調講演で、「AIの“民主化”を強力に押し進めたい」と語った。
Microsoftが進める「AIの民主化」とは、ソフトウェア開発者が同社のコグニティブAPIをクラウドサービスから容易に活用できることや、同社のAI技術をオフィスアプリケーションの「Office 365」や「Dynamics 365」などに適用していくことを指す。こうしたビジネスモデルはGoogleも同じ印象だ。
富士通やIBMもコグニティブAPIをクラウドサービスから提供しており、自社ソフトウェアにもAI技術を適用していく方針だが、基本的には「顧客企業との協業」を前提としており、Microsoftのように「広く開放」する姿勢を強く打ち出しているわけではない。これはビジネスモデルの違いといえる。
なぜ、違うのか。ここからは筆者の推測だが、富士通やIBMは従来、システム構築などで個々の顧客企業と「協業」してきた背景があることから、AIの取り組みにおいてもそうした長年の関係を生かせるとの思惑があるのではないか。
「de:code 2017」で話す米Microsoft AI&リサーチ部門のSteven Guggenheimerコーポレートバイスプレジデント
一方、MicrosoftやGoogleはそれぞれ、オフィスアプリケーションや検索エンジンで圧倒的なシェアを保持していることから、開放したAI技術で開発者が新しいアプリやサービスを生み出せば、それらがまた連携し合って「Microsoft経済圏」および「Google経済圏」を一層拡大させていくことができるとの思惑があるのではないか。
つまり、それぞれにこれまで培ってきたビジネスモデルを生かす形で、AI活用にも取り組んでいこうということではないだろうか。その意味では、「協業」それとも「民主化」というのが、ビジネスモデルの違いを象徴するキーワードのようにも見て取れる。
さて、今後どちらのビジネスモデルがより大きく発展するか。AIを軸にしたダイナミックな合従連衡も大いにありそうだ。ただ、その際はAIもさることながら、「データの生かし方」に注目しておく必要があるだろう。