富士通研究所は、CT検査における医師の判断を支援するために、AIを活用して、過去に撮影されたCT画像のデータベースのなかから、異常陰影の立体的な広がり方が類似する症例を検索する技術を開発した。
初期の肺ガンなどのように、異常陰影が1カ所に集中している場合には、CT画像をもとにして類似症例を検索する技術はあったが、肺炎などの「びまん性肺疾患」のように、臓器全体に異常陰影が立体的に広がる場合には、立体的な類似性を医師が改めて確認する必要があり、判断に時間がかかるという課題があった。
富士通研究所 ソフトウェア研究所メディアサービスプロジェクト 主任研究員の馬場孝之氏は「日本は、CT装置の国内保有台数が第1位であり、さらに、撮影装置の高度化によって、検査対象の画像枚数が増加。医師の業務負荷が増大している。特に、びまん性肺疾患と呼ばれる疾患群は、胸部CTの検査数のかなりの比率を占め、間質性肺炎や肺気腫などの多くの疾患を含む」と話す。
「CT画像の読影診断には豊富な知識と経験が必要であり、これを手作業で行うには時間がかかる。読影診断の効率化のために、医師の判断の参考になる病名や、カルテ情報などをもとに、類似症例を検索する技術が求められていた」と続ける。
富士通研究所 ソフトウェア研究所メディアサービスプロジェクト 主任研究員の馬場孝之氏
新たに開発した技術では、医師が臓器内を抹消、中枢、上下左右といった立体的な領域に分けて、異常陰影の広がり方を見ていることに着目。画像解析によって、臓器を自動分割して、それをAIが認識。立体的な広がり方が似た症例を高精度に検出できるという。
具体的には、CT画像から異常陰影候補を機械学習によって認識。CT画像において比較的明瞭な部分から、中枢、抹消の領域の境界面を順次推定することにより、肺を中枢、抹消の領域に分割。上下方向の体軸に沿って、中枢および抹消の領域に存在するそれぞれの異常陰影候補の個数をヒストグラム化して、異常陰影の立体的な特徴を見ることができ、類似する症例を検索できる。
似ている症例を右側に表示し、異常陰影の様子をヒストグラム化する
「従来技術では、断面画像は似ていても、立体的に見ると似ているとは限らない。立体的に類似性を医師が確認していく必要があり、時間がかかっていたが、これを解決できる」という。
広島大学大学院との共同研究において、約50種類の実データを用いて技術を評価した結果、医師があらかじめ定めた正解に対して、AIによる検索結果の上位5件に含まれる正解率が85%に達したという。
緑の部分がAIで認識した異常陰影の部分