サイバーセキュリティ未来考

なぜ「侵入前提」?--攻撃被害を最小化する「サイバーレジリエンス」のススメ

吉澤亨史 2017年07月10日 06時00分

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 本連載「サイバーセキュリティ未来考」では、注目のキーワードを読み解きながら、企業や組織におけるセキュリティ対策のこれからを占う。

「サイバーレジリエンス」とは?

 今までのセキュリティ対策は、「脅威を侵入させない」ことが重視されていた。しかし、サイバー攻撃の巧妙化によって、気づかないうちに脅威が内部に侵入するケースが増えた。例えれば、城の壁を強固にして、城門に衛兵を常駐させて脅威から守っていたのに、脅威が空から城壁を越えたり、地中を掘り進んで城内に潜り込んだり、あるいは味方や出入業者のふりをして衛兵をあざむき、内部に侵入されるようになったようなものだ。

 こうした状況から今のセキュリティ対策では、脅威が内部に侵入する、「侵入前提」を考え、侵入した脅威を検知し、対処する「サイバーレジリエンス」が注目されている。

 「レジリエンス」とは心理学用語で、「精神的回復力」や「抵抗力」「復元力」「弾性」などの意味がある。これを日本工業規格として社会セキュリティ用語「Q 22300:2013(ISO 22300:2012)」に掲載。「複雑かつ変化する環境下での組織の適応できる能力(注記:レジリエンスは、中断・阻害を引き起こすリスクを運用管理する組織の力である)」と解説されている。

 近年では、複数のセキュリティベンダーが「サイバーレジリエンス」あるいは「セキュリティレジリエンス」という言葉を使い始めている。この場合は、サイバー攻撃を受けたり、マルウェア感染が発生したりした時でも、組織がこれを早期に検知して対応することで、影響を最小限にとどめる――という考え方になる。具体的には、企業などのネットワークの出入り口や内部にサイバー攻撃やマルウェアを検知できる仕組みを構築するとともに、検知された際の対応体制を作ることだ。これにより、最悪の事態となる業務の停止を回避する。

セキュリティ対策機器の高度化も一因

 企業や組織で標的型攻撃などの高度なサイバー攻撃による被害が次々に明るみになり、セキュリティ対策も高度化してきた。それでも、かなり大規模な企業ですらサイバー攻撃の被害に遭い、機密情報が漏えいするなどの事件が発生している。被害に遭った企業はどこもセキュリティ対策が不十分だったのかというと、決してそんなケースばかりではない。むしろ、相当に強固なセキュリティ対策を構築している。それにもかかわらず被害に遭うのは、脅威に気づけなかったことが原因であるようだ。

 サイバー攻撃者とセキュリティ対策ベンダーの"イタチごっこ"は現在も続いており、そのサイクルは早まっている。例えば、パターンファイルをすり抜けるマルウェアに対し、仮想環境で実際にファイルを実行して危険性を確認する「サンドボックス」が登場すると、仮想環境であることを検知して動作を停止するマルウェアが登場した。サンドボックスがメモリの動作もチェックして、マルウェアの停止動作を確認できるようになると、今後は攻撃者がファイルを分割して標的に送り付け、サンドボックスを通過した後に結合するというマルウェアを編み出した。

 また標的型攻撃では、攻撃者は「コマンド&コントロール(C&C)サーバ」というマルウェアを遠隔から指令するためのサーバを立て、マルウェアに指令を送る。そこでの通信は、一般的に使用されるウェブブラウザの通信に偽装している。そして、盗み出したデータをC&Cサーバへ送信する場合も同様だ。

 このように偽装された通信を検出するセキュリティ機器もまた、多くの企業で導入されているが、機器の設定が初期設定のままだと、大量のアラートが発生してしまう。これは、機器が「悪意のある通信」と断定するケースだけでなく、「怪しい通信」と判断するケースがあるためだ。結局、機器を導入した企業ではその管理や運用が手に負えなくなり、大量のアラートに含まれる本当に危険なアラートを見逃してしまうケースが多い。

 仮に危険なアラートを把握できたとしても、そのアラートが示す状況に対応できる部署が無ければ、重大なインシデントに至ってしまうことも少なくない。そうなれば、業務システムの停止によって事業が継続できなくなったり、被害が拡大して利用者や関連企業にまで影響が及び、損害賠償を請求されてしまうといった最悪のケースに至る。特に、現在でもセキュリティ対策がファイアウォールと不正侵入検知/防御システム(IDS/IPS)、クライアントPCやサーバなどのセキュリティ対策ソフトのみというケースが多い中小企業では、なおさら事業停止の危険性が大きいといえる。

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