現在、多くのITベンダーがクラウドやモバイル、ソーシャル、ビッグデータといった新たなテクノロジプラットフォームをビジネスに活用する「デジタル変革」の必要性を企業に提唱している。ただ、デジタル変革を自ら実践するベンダーは、どれだけあるのだろうか。デジタル変革を掲げるCA Technologiesの最高技術責任者(CTO)、Otto Berkes氏が、同社での取り組みを紹介した。
CA Technologies 最高技術責任者のOtto Berkes氏
Berkes氏は、多くの企業でメインフレームなどのレガシーシステムが足かせとなり、彼らがテクノロジの"迷路"に迷い込んでいると、その現状を表現する。これはITベンダーも同様であり、「例えば、Googleは20億行ものコードを抱えており、これが将来の彼らにとって足かせにならないように気を付けなければならない」と話す。
企業のIT予算のうち、実に80%がメンテナンスに費やされ、これがデジタル変革を阻む1つの原因になっているという。
「自社がデジタル変革のためにテクノロジを活用できていると答えたIT責任者は10%しかおらず、残念ながらソフトウェアベンダーも同様だ。少なくとも、IT予算の40%は変革のための投資に振り向けるべきだ」(Berkes氏)
Berkes氏によれば、CAではデジタル変革を実際に推進する取り組みとして、中核製品の技術開発や有望なテクノロジを持つスタートアップへの出資、買収、パートナーエコシステムとの連携に加え、「CA Accelerator」と呼ぶ社内のインキュベーションプログラムを立ち上げている。
CAが取り組む「デジタル変革」に向けた施策
同社におけるデジタル変革に向けたアプローチには、2つの軸があり、1つは「アイデア・ファクトリ」という新しいテクノロジやビジネスのアイデアを生み出すものだ。もう1つは「ソフトウェア・ファクトリ」という、アイデアを具体的な形にしていく設計や開発、展開、運用になる。この2つの軸からなるコンセプトとして、「モダン・ソフトウェア・ファクトリ」を掲げている。
「『ソフトウェア・ファクトリ』という言葉は昔からあるが、あえてこれに『モダン』を加えている。俊敏性、ユーザー体験、安全性、パフォーマンスの観点で常に結果と検証のループを回し続け、画期的なアイデアを実行していくことが、このコンセプトの柱になる」(Berkes氏)
CA Acceleratorは、このモダン・ソフトウェア・ファクトリのコンセプトを具体化した施策になる。この取り組みでは、「顧客重視の徹底」「継続的な投資」「迅速な実験と反復」「迅速な修正と方向転換」を原理、原則にしているという。
「CA Acceleratorは、デジタル変革のアイデアを生み出すだけでなく、アイデアを常に検証し、最終的にガバナンスを効かせ、成功を目指す。仮に、ビジネスにつながらなくとも、CAにとって有益なアイデアやテクノロジを発見できる機会になっている」(Berkes氏)
開始から約1年半が経つCA Acceleratorでは、これまでにコンテナやマイクロサービス、チャットボット、機械学習、プロジェクト管理、IoT仮想化、アナリティクス、人材発掘、コミュニケーションの分野で、9つのプロジェクトが発足している。
「CA Accelerator」から誕生した9つのプロジェクト
例えば、コンテナベースのDevOpsのモデリングツールを手掛ける「Yipee.io」プロジェクトでは、ベンダーやユーザー企業が開発、公開しているDockerコンテナなどをGUIで直感的に利用できる仕組みを提供する。「Dockerコンテナは利便性が高い一方で、コンテナ化の作業は煩雑であり、使いやすさに課題があった。Yipee.ioのメンバーはこれを解決するアイデアを具現化している」(Berkes氏)
また、アナリティクスプロジェクトの「Project Jarvis」での成果は、高度なアナリティクスエンジンとしてCAの主要な製品に実装されるようになった。
Berkes氏によると、同社にとってCA Acceleratorは、産学連携などによる先端技術の開発に次ぐ位置付けとなる。「将来の技術とプロダクトの中間を補う。もちろん10のプロジェクトのうち9つが失敗してしまうかもしれないが、収益性を追求するのではなく、CAになかったものを生み出すためにもCA Acceleratorがある」
冒頭でBerkes氏が指摘するように、いまだ企業はIT予算の多くをデジタル変革に振り分けられないでいる。Berkes氏は、その道筋の付け方を以下のようにアドバイスしている。
「私も過去に在籍した会社で経験したが、まずは現在のITシステムの運用にどの程度リソースを割いているのかを可視化しなけばならない。そして、例えば自動化ツールの導入によって効率化されたリソースを明らかにし、それをデジタル変革のために組み替える。スタッフにも、それが新しいチャンスであることを実際に見せる。ITの本質的とは、テクノロジでより良いものを生み出し、変えていくことにあるからだ」(Berkes氏)