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それでもクラウド化する理由--IT部門の全面的な組織改革に踏み切ったリコー

怒賀新也 (編集部)

2017-08-03 07:30

 「クラウドにはコストが固定化するというデメリットがある。」

 こう話すのはリコーの執行役員、デジタル推進本部本部長を務める石野普之(ひろゆき)氏だ。売上高が連結で2兆288億円(2017年3月期)、海外売上比率が62.2%に上るグローバル企業の情報システムを一手に引き受ける石野氏に、クラウド化をテーマに話を聞いた。

 複写機ビジネスを手掛けるリコーにとって重要なのは、ユーザー企業で稼働しているコピー機を止めないこと。そのため、予防保守を中心に顧客サービスを強化している。

リコーの執行役員、デジタル推進本部本部長を務める石野普之氏
リコーの執行役員、デジタル推進本部本部長を務める石野普之氏

 基幹と言えるこの複写機ビジネスを支えるため、リコーは文字通り基幹システムとしてERPである「Oracle E-Business Suite(EBS)」を2000年代に導入した。7年間にわたった導入をリードした石野氏は「本当に大変だった」と当時を振り返る。

 パッケージソフトウェアとして複写機ビジネスに対応しているものはオラクルやSAPなど主要なものにはなく、作り込む必要があった。「EBSはモディファイ(変更)しやすかった」のが採用の決め手になったという。

 複写機ビジネスを支える基幹システムの重要性は今後も変わらないと強調する石野氏。しかし、時間の流れとともに経営環境が急速に変化しており、新たな取り組みを着手するタイミングが来た。

「攻めのIT」へ

 「複写機ビジネスの収益性は高いものの、それだけでは限界がある。新たな収益をつくる“攻めのIT”が求められてきている」(石野氏)

 新たなビジネスの例として、Tシャツなどへのプリントやヘルスケア、光学系の新事業などを挙げる。事業計画はさまざまなものが多岐にわたるため、世界各地への展開を見据えた上、機動的に試す必要があるという。スピードとコストを考えると、それをオンプレミスで構築するのは理にかなわないと考えている。

 石野氏は既に、多くのクラウド導入に踏み切った。SaaSはOracleを中心にOracle ERP、Sales Cloud、Service Cloud、Marketing Cloud。Office 365やNotes Cloud、IaaS/PaaSではAWS、Microsoft Azure、IBM Bluemixなどを利用している。

 クラウドを導入することも、オラクルを使うことも、それ自体が目的ではないと同氏。

 「本来、新たな製品を先行して導入しないようにしている。バグ出しをすることになったり、品質の悪いソフトウェアによってしなくてもいい苦労をしたりすることがあるからだ」(石野氏)

 そうしたリスクを認識した上で、さまざまなクラウドサービスの利用に踏み切った理由は何か。「必要な機能がクラウドでしか提供されていないから」だと打ち明ける。

 サイバー攻撃への対策などのセキュリティ面やコンプライアンス対応を含めて、ベンダー側が最新機能をクラウド版のアプリケーションやミドルウェアに先行して展開しようとしている点は、「クラウドなのかオンプレミスなのか」という命題について答えを出す際に、ポイントになってきそうだ。

 クラウド導入を前提にしたスピード重視のIT対応を実践する際に、最も重要になるのが、ユーザー側である社内の各ビジネスオーナーと良好な関係を結ぶことだという。クラウド選択など的確な「目利き力」を軸に、ユーザー部門にスピードとコストを重視するクラウドの方法論への理解を促す必要もある。

 これを実践するためにリコーはこの4月、IT部門を中心とした大規模な組織変更に踏み切った。象徴的なのが、本社側であるIT担当部門の名称を「デジタル推進本部」に変更したことだ。二百数十名の組織で「デジタルオーナーと経営革新をドライブする」ための部門となる。一方、実際の導入や運用については、石野氏が代表取締役を務めるリコーITソリューションズの約1000人の組織が担当するようにシフトした。全体の半分くらいの人が異動したという大きな組織変更となった。

 デジタル変革時代の新たなスキルセットとして取り上げられるのが「IT部門の担当者が収益を考える」というもの。だが「経営と技術の両方を極めようとするとどっちつかずになる」とそのデメリットを石野氏は指摘する。今回の組織改革では、ホワイトハッカーのイメージで、技術をとことん追う者と、経営的な視点を持つ者との2つに技術者を分けた。

 1泊2日の合宿を実施し、会社の将来を考えた時に何をしなくてはいけないのか、という危機感の醸成に努めているという。

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