ロボットや人工知能(AI)によって生み出される価値は、年金受給開始年齢の引き下げや、労働者に対するさまざまな福祉サービスとして社会に還元されるべきだ。
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英国の労働組合会議(TUC)がまとめたレポート「Shaping Our Digital Future」(デジタルな未来の形成)によると、テクノロジの変革によるこれまでの波は社会全体に対する雇用機会の減少を引き起こしてはいないが、生産性の向上によってもたらされた利益の大半は経営者のものとなっており、賃金や労働環境の向上といったかたちで労働者に還元されていないという。同組織は、近い将来もたらされるであろうAIによる生産性向上の波では、違ったかたちになることを望んでいる。
同レポートによると、1950年には労働者の3人に1人が製造業に従事し、専門的なサービスや技術系のサービスに従事していたのは12人に1人にすぎなかったという。この比率は2016年までに逆転したものの、製造業で失われた雇用が、影響を受けた業界における同程度の、あるいはより良い雇用で置き換えられることはなかったという。同レポートは「かつての産業地域の賃金はいまだに、全国平均よりも10%低い状況にある」と記している。
ロボットやAIによって、今後数十年間にわたって生産性が向上すると見込まれているなか、TUCは労働者の生活に対する悪影響を最小限に抑え、生産性向上のメリットを労働者にもたらす機会を最大化するために、より多くのことがなされるべきだと主張している。
TUCは、生産性の向上による所得の増大は、国の年金支給開始年齢引き上げ計画の阻止に利用できると述べるとともに、「中年層のキャリアの見直し」に対する権利と、職業訓練への新たな投資を要求している。
同レポートは「これまでのテクノロジ変革では雇用の減少は引き起こされていない。しかし、全体的な労働時間は減少している。労働者としての人生の質の向上をもたらす能力は、テクノロジ変革によってもたらされるであろうメリットとして前向きに受け止めるべきだ」と記している。
TUCの書記長であるFrances O'Grady氏は、「ロボットやAIによって、より少ないリソースでより高い生産性をもたらせるようになる結果、国家はさらに繁栄する。しかし、誰がこうした繁栄のメリットを享受するのかについてや、労働者が妥当な対価を得られるようにする方法について議論する必要がある」と述べている。
「ロボットは職を奪うターミネーターというわけではない。今日の職の一部はなくなるだろうが、新たな職が生み出されもするだろう。そして、今後生み出されるそういった職は、現在存在しているものよりも悪くならないようにしなければならない。また、十分な給料と優れた労働条件をともなう、満足のいく仕事でなければならない。さらに、もはや不要となる職に就いている人々が新たな職に就けるよう、職業訓練のための資金を用意する必要もある」(O'Grady氏)