前回の道場 で、デザイン思考は未来をどのように制約なく創造できるか、“直感的に面白く、これまでになかった発想”を生み出す源泉となるというお話をしました。デザイン思考から生まれたアイデアは、どこに活かされるのでしょうか。
多くのアイデアは、サービス、製品となりユーザがそれを実際に触れ、使い、ユニークな体験をします。魅力的なサービスは、ポジティブでありワクワクするような体験であり、逆に言えばワクワクする体験をさせるためには魅力的なサービスを考えなければならないのです。
ワクワクさせる体験を起点にしてその魅力的なサービスを考えだすプロセスが前回ご紹介したデザイン思考であり、起点となるワクワクさせる体験を“エクスペリエンス”と呼びます。今回のテーマは、このワクワクさせる体験をどう創造していくのか、今デジタルの流れで注目を浴びているキーワード”エクスペリエンス”です。
UIはユーザとの架け橋
エクスペリエンスはワクワクさせる体験をどう顧客に体験させるか。より満足度の高い顧客体験を実現するにはサービスを雑念なくストレートに感じさせる事が前提となってきます。つまりサービスとユーザの間を複雑で難しくしない事が重要です。どんな素晴らしいサービスも利用方法が難しかったら操作に神経が集中してしまいます。サービスとユーザの架け橋、それがUI(ユーザインターフェース)です。
UIが注目されたのは、コンピュータの世界から。スマートフォンを自由に操る若い世代の方にはピンとこないかもしれませんが、僕らおじさん世代の子供時代は、パソコンは一部のマニアのモノでした。画面には、謎の文字が並び、アプリの起動も文字のコマンド(CUI(キャラクターユーザインターフェイス))。
コンピュータを持てるのは特別な人だったのです。現在のようにコンピュータが一般の人に受け入れられたのは、コンピュータの画面が画像でわかりやすく操作できるようになってからです。GUI(グラフィカルユーザインタフェース)と呼ばれる画像が中心の画面ではアイコンやメニューボタンなどが文字でのコマンドではなく絵になり視覚的に分かりやすいので、クリックするだけで誰にでも簡単にコンピュータを操作できるようになりました。たとえば、字がまだ読めないお子様がコンピュータを使えるようになったのはGUIのお蔭と言えるでしょう。
また、紙文化だった当時、印刷は重要な機能であったにも関わらずコンピュータの画面で表示されたものはそのまま印刷することは出来ませんでした。コンピュータの画面でかっこよく表示されていても印刷するとカッコ悪いフォントになって無機質な感じになるのは当たり前でした。
アップルは、MacintoshでQuickDrawを開発し、コンピュータの画面表示と印刷で紙に出力される表示を同じのものにしました。これも、当時は革命的でした。ここでコンピュータとプリンターとユーザ間でのUIの進化を可能にしたのがWYSWYG(What You See Is What You Get)。
コンピュータのディスプレイに現れるものと印刷されたものが同じになる技術です。こうやって、サービスとユーザとのインターフェイスであるUIは技術の革新によって、ユーザとコンピュータの境界線がより低くなり、ユーザにサービスを身近なモノにしていったのです。
変化し続ける顧客体験がインターフェースからエクスペリエンス
コンピュータとユーザの距離は、GUIやWYSWYGから、さらにスマートフォン、タブレットの普及に伴いタッチパネルなどの技術の登場によってさらに一気に近づきました。ビジネス面でも、例えばオムニチャネルの世界では、インターネット通販での顧客接点を拡大し、リアルなチャネル(販路、顧客接点)から購買ができるようになり、顧客接点がネットだけではなくリアルな店舗など流通経路がシームレスに統合されるようになりました。
インターネットの世界(バーチャル)とリアルが融合し、ユーザ体験の幅が大きく広がったのです。ユーザ視点に戻せば、ユーザは様々なUIを経由して様々なサービスと接する事になり、複数のサービスを通して統合された一つの体験、経験をしていきます。このコンピュータやスマホの端末中心だったUIという定義を超えたこのユーザの体験や経験をUX(ユーザエクスペリエンス)と呼ぶようになったのです。つまりUXはUIの上位概念になります。