従来の常識が通じないデジタル時代の様相については前編で述べた。後編では、デジタル化がもたらす変化をどのように生かすか、いかに新しいビジネスやサービスを立ち上げるかを考えてみたい。
結論から言えば、デジタル時代の主戦場は顧客体験だ。逆に言うと、生活者の体験に注目しない企業や提供する体験を進化していけない企業は、やがて誰かにそのポジションを奪われるだろう。その相手はいち早く変革を遂げた伝統的企業かもしれないし、テクノロジに明るいスタートアップかもしれない。
顧客体験の向上を図る際、顧客に相対する仕組みだけでは対応できないことも多い。ECサイトを例に挙げると、ECサイト内の画面デザインや機能を工夫して使い勝手を改善させることはできる。しかし、より優れた体験を目指すとすれば、それだけは足りない。
配送時間を大幅に短縮するためには、物流の仕組みを含めて見直す必要がある。あるいは、カスタマーサポートの充実を図るには、コールセンターの業務やシステムの改革を含めて顧客との向き合い方を見直す必要がある。顧客と直接向き合うフロントエンドだけでなく、バックエンドの業務や仕組みとの連携が重要なポイントになる。
生活者を起点としたビジネスを生み出すためには、「サービスデザイン」というアプローチが有効となる。これは、生活者の視点から着想、デザイン、効果測定を繰り返しながらサービスを立ち上げ、改善していくアプローチで、簡単に言うとデザイン思考に基づいた事業構想だ。サービスデザインの流れは大きく5つのステップに分けることができるので、以下でそれぞれ簡単に説明したい。
サービスデザインの5つのステップ(アクセンチュア作成)
サービス提供の前後を含め、一連の顧客行動を観察する
第1ステップは「機会を見つける」である。エスノグラフィ(行動観察)やユーザーインタビューなどの手法を用いて、表面的な観察だけでは把握できない課題やニーズなどを掘り起こす。
例えば、観光業界ならば、旅行者を観光地に呼び込むことだけに注力するのではなく、一連の行動の中で旅行を位置付けることが重要だ。どんな動機で旅行を思い立つのか、なぜその場所を選んだのか、旅行期間中だけでなく、その前後を含めて旅行者の行動を観察することで、新たなサービス機会のヒントを得られることは多い。
第2ステップは「コンセプトを描く」である。第1ステップで得た知見や気づきをもとに、さまざまな部門の関係者が集まり、どこにサービスの機会があるのか、どのようなサービスが可能かというアイデア出しを行う。アクセンチュア インタラクティブでは、ワークショップを行うとき、できるだけ制限を設けず自由に発言を促すこと、できるだけ今の商習慣や業務のやり方に縛られないで発想することで、多彩なアイデアを引き出すよう心掛けている。
第3ステップは「息を吹き込む」。アイデアを具体化するプロセスである。スーパーマーケットを例に取れば、買物客が自宅から店舗に向かい、他の施設などにも寄り道して帰宅し、料理を作るといった一連の行動を、カスタマージャーニーなどの手法を用いてトレースする。店舗外の行動を含めた一連の体験を捉えることで、利用者の視点からアイデアを具体的なデザインに落とし込むのである。
第4ステップは「作り出す」だ。ここではテクノロジの要素が大きい。また、開発と同時に、どういう業務で実現するのか、オペレーションのプロセスなどもデザインする必要がある。最後に、新サービスを「リリースする」。効果を測定しながら、短期間でPDCAサイクルを回し改善を繰り返すことが重要だ。
これら5つのステップを効率的に進めるには、各領域の専門家の存在が欠かせない。プロジェクトの規模や性質によって異なるが、アクセンチュア インタラクティブの場合は、最低でも3種類の人材を含めてプロジェクトメンバーを構成する。サービスデザイナー、ビジネスデザイナー、UX/UIデザイナーである。
また、サービスデザインのプロセスを通じて描かれたサービスは、ビジネスとして具現化され世の中に出ていかないと意味がない。具体的には、描かれたサービスをビジネスの戦略として落し込み、必要に応じて外部のパートナー企業を巻き込みながら、ビジネスに必要な業務の立ち上げやシステムの企画・開発を進めていき、実際のサービスとして具現化していくのだ。アクセンチュア インタラクティブがこうした新規ビジネス立ち上げを支援する場合、各業界に精通したアクセンチュアのコンサルタントやテクノロジ領域の専門家などもプロジェクトに参画することで、着実かつ迅速に立ち上げるための一貫した支援体制を整えている。