クラウドよりオンプレミスとIBMのPOWER、AIXに賭けたニトリの選択

渡邉利和

2018-10-29 13:36

 日本IBMは10月26日、ニトリホールディングス(ニトリ)が基幹データベースシステムに「IBM Power System E980 Server」およびオールフラッシュストレージの「IBM DS8886F」を採用したことを発表した。IBM Power System E980は、同社が独自開発するRISCプロセッサ「IBM POWER9」を搭載するスケールアップ型サーバで、米国では8月7日に発表され、国内では9月21日に出荷が開始された最新モデル。今回のニトリでの採用は国内出荷の第1号だという。

日本IBM 常務執行役員 ハードウェア事業本部長の朝海孝氏
日本IBM 常務執行役員 ハードウェア事業本部長の朝海孝氏

 日本IBM 常務執行役員 ハードウェア事業本部長の朝海孝氏は、POWERプロセッサが1990年の初代リリース以来連綿と進化を続けていることを紹介、次世代となるPOWER 10の開発も2020年以降のリリースを目指して進行中だとした。また、POWER9搭載サーバに関しては、2017年末に人工知能(AI)基盤として出荷を開始したAC922、2018年3月に出荷を開始したスケールアウトサーバ群、同5月に高信頼なLinux基盤となるLC921/922と、性格の異なるモデルを順次市場投入してきた経緯を振り返り、今回紹介したエンタープライズサーバ(E950/E980)を、最新のスケールアップサーバと位置付けた。

ニトリはなぜPowerを選んだか

 ニトリがIBM Power System E980を採用した経緯などについて、同社情報システム改革室 ICTインフラ戦略担当ディレクターの荒井俊典氏が紹介した。

 同氏は、まずニトリの概要と社風について紹介。同社は第1期30年ビジョンとして掲げていた「100店舗 売上高1000億円」という目標(1973~2002年)を達成し、現在は第2期30年ビジョンとして「2032年に3000店舗 売上高3兆円」を目標(2002~2032年)として掲げている。同社は社員全員がこのビジョンをゴールとして意識した上で、ゴールから逆算して現在の仕事をどうするかを考える意識が根付いているという。

ニトリホールディングス 情報システム改革室 ICTインフラ戦略担当ディレクターの荒井俊典氏
ニトリホールディングス 情報システム改革室 ICTインフラ戦略担当ディレクターの荒井俊典氏

 また、同社のビジネスモデルは「商品企画から製造・物流・販売までを一貫して自社でブロデュースする“製造物流小売業”」であり、いわば“自前主義”だとし、ITシステムに関しても“自前主義”で、基幹システムも自社開発されたフルスクラッチのシステムを使用しているという。なお、データベースは長年Oracle Databaseを採用しており、その上に独自開発の基幹アプリケーション(サプライチェーン管理など)を実装しているという形だ。

 ハードウェアプラットフォームとしては、2007年までIAサーバによる分散処理を行っていた。30台以上のIAサーバでそれぞれ独立したインスタンスのOracle Databaseが稼働しているという環境では、常にどこかで障害が起きているという状態だったという。この状態を改善するため、2008年にPOWER6搭載サーバを導入して分散したデータベースサーバを1つのインスタンスに集約(Oracle RACによるクラスタ)、運用の効率化と高信頼化を実現したという。その後、2013年にはシステム更新でPOWER7世代に移行、さらにSSDストレージ(DS8870)の採用で高速化を実現している。このシステムのコンポーネントを最新世代に入れ替えたのが、今回の採用事例となっている。

ニトリの基幹データベース・システムの経緯
ニトリの基幹データベース・システムの経緯

 今回のPOWER9の導入のポイントとして同氏は、「2007年以降の安定した稼働実績(大きな障害はゼロ件)」と、「柔軟かつ余裕度を持ったスケールアップ可能なアーキテクチャ」を挙げている。なお、POWER以外の選択肢としてクラウドの活用も検討したそうだが、自社開発のアプリケーションの基本アーキテクチャがスケールアップ型であり、これを完全に作り替えてクラウド向きのスケールアウトアーキテクチャに転換することは困難という認識から、クラウド移行ではなくオンプレミスでIBM Power System導入という結論に至ったという。

POWER9の特徴

 IBMの朝海氏は、「POWER6からメインフレームのプロセッサ開発チームとPOWERの開発チームのコラボレーションがより一層強化されたことで、メインフレーム側には高速化技術が、POWER側には高信頼技術がそれぞれもたらされ、ともに進化した」と語った。今回のIBM Power System E980でも、メインフレーム由来の高信頼性機能としてハードウェアベースの仮想化技術(LPARなど)やRAS(Reliability、 Availability、 Serviceability)機能、セキュリティ機能などが実装されており、ニトリでの「2007年以降大規模な障害発生ナシ」という実績をさらに伸ばすことも期待できそうだ。

 なお、発表会場内ではPOWERプロセッサの巨大模型が展示され、技術説明なども行われていたので、ここでいくつか特徴を挙げておきたい。まずPOWER9は、14ナノミリ(nm)プロセスで製造されており、最大コア数は12/24コアのマルチコアプロセッサとなる。内蔵される演算ユニット数に異なる2種類のコアが使われており、12コア版は4実行ユニット/同時8命令実行の「POWER9 SMT8 Core」、24コア版では2実行ユニット/同時4命令実行の「POWER9 SMT4 Core」が使われている。SMT4コアのダイ上でのコアのサイズはSMT8コアのちょうど半分であるため、実は12コア版と24コア版ではダイサイズも同時命令実行数も同じとなっている。

 12コア版と24コア版は、ワークロードの性質などに応じて使い分けられる。商用ソフトウェアのライセンスがプロセッサのソケット数やコア数を基準に決められることが多いことなども考慮すると、12コア(SMT8)の方がスケールアップ型の構成に向き、24コア(SMT4)はスケールアウト型に向くと言って良いだろう。E980のプロセッサとしても、12コア版が使われている。

 IBMはNVIDIAとの連携を深めており、POWER8からはNVIDIA NVLinkをサポートしてPOWERプロセッサとNVIDIAのGPUを連係動作させ、AIワークロードを高速処理する取り組みを強化している。POWER9では最新仕様のNVIDIA NVLink2やPCI Express 4.0をサポートしてさらに強化を図っており、これを踏まえたAI処理向けモデルとして「AC922」も2017年末に投入されている。コアのレベルからモジュラアーキテクチャが採用されており、さまざまなバリエーションが展開できることを特徴とするPOWER9では、実際にAI向け、スケールアウト向け、スケールアップ向けといった性格の異なるサーバが作り分けられるなど、ユニークな取り組みとなっている。

IBM POWER9搭載サーバの全ラインナップ

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