山谷剛史の「中国ビジネス四方山話」

スマホを揺らし続ける「揺歩器」が売れるワケ

山谷剛史

2018-11-13 06:15

 中国でスマートフォンを揺らし続ける「揺歩器」が、「淘宝網(Taobao)」をはじめとするさまざまなECサイトで月間数万個か、それ以上の単位で売れている。あまりに売れている商品なので筆者も購入(日本円で500円程度、送料込み)してみたが、USBケーブルないしは単3電池経由で電力を供給すると、ひたすら止まらないブランコのようにスマートフォンを置いた台座を揺らし続けるというシンプルな製品だ。揺歩器はただ揺らし続けるだけでそれ以上の機能はない。

 この揺歩器は、スマートフォンの一部のアプリに搭載された歩数計機能をだますためにある。つまり揺歩器でスマートフォンを揺らし続けることで、あたかもたくさん歩いたようにする機械なのである。

 北京青年報の報道によれば、揺歩器を使って毎日たくさん歩いたことにして、その結果をSNSの微信(WeChat)で自慢する人もいる。また学生に向けて毎日1万歩以上歩くよう自主訓練を促す大学もあり、その課題を揺歩器に代行させる学生もいるという。

 中国では近年、健康を意識してかマラソン大会が各地で開催されるようになり、夜中にそれなりの距離を散歩する市民も見かけるようになった。中国では健康ブームとなっている中で、歩くことでプラスになる健康を意識したアプリやサービスが続々と登場している。

 いくつか例を出そう。先日の11月11日は「独身の日」商戦で、多くのECサイトが特売品を用意し、多くの人がオンラインショッピングで消費した。阿里巴巴(Alibaba)をライバル視する京東(JD)は、独身の日キャンペーンの一環として、家にこもりがちな11月11日に運動してもらおうと、歩いた分だけ200ブランド・20万店舗の商品が割引になるチケットなどを提供した。こうした運動を促進するサービスで、歩かずして恩恵が得られる揺歩器が活用される。

 中国保険大手の平安保険がリリースしている「平安好医歩」や「悦動圏」という運動系アプリでは、歩いた分だけ少額ではあるが金一封(紅堤)がもらえる仕組みとなっている。またアント・フィナンシャルの電子決済「支付宝(Alipay)」でも、運動すれば運動するほど金一封(紅包)やプレゼントがもらえるという機能がある。いずれも揺歩器で検索すると次の単語として予想検索が出てくる(出てきた)ものであり、また淘宝網などの販売ページで書かれている対応アプリである。ほかにも「微信運動」「QQ運動」「我的運動」など多数のアプリの名前が挙がる。

 平安保険がリリースしている保険商品「平安福」は保険購入の2年前か、同社の歩数測定プラットフォームで600日間、毎日1万歩以上を歩くと、保証金額が10%アップする商品だ。平安保険に続き、ほかの複数の保険会社も、運動することで優遇する保険をリリースしている。あまつさえ顧客獲得のためにこのチートマシン「揺歩器」を契約時にプレゼントする保険会社の営業員すら出ているという本末転倒な話もある。

 中国政府は国民が健康であるために運動を促進する5カ年計画を立てて実行している。例えば、中国政府国務院が発表した「全民健身計画(2016~2020)」では、人々に健康的な生活を送ってもらうべく、運動を定期的に行う人を飛躍的に増やそうとし、具体的な数字として週1回の頻度で運動する人を7億人、よく運動する人を4億3500万人まで増やす環境作りをするとしている。

 政府が市民に運動を促そうとしている背景の中でも、運動を促進するアプリやサービスが登場する一方で、一部のずる賢い消費者は運動の恩恵だけあずかろうと、揺歩器が爆売れしているのだ。

山谷剛史(やまや・たけし)
フリーランスライター
2002年から中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、ASEANのITや消費トレンドをIT系メディア、経済系メディア、トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に『日本人が知らない中国ネットトレンド2014』『新しい中国人 ネットで団結する若者たち』など。

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