展望2020年のIT企業

日本人が経営する中国・深センEMSの可能性

田中克己

2018-09-13 07:00

 中国のシリコンバレーとも言われている深センを訪問する日本企業が増えている。人工知能(AI)やモノのインターネット(IoT)、拡張現実(AR)/仮想現実(VR)など最先端技術を駆使した新しいビジネスの動向を探るためだ。電子部品や材料の調達から製品製造・検査までのサプライチェーンの拠点としても注目する。

 そんな深センに電子機器の組み立て工場を立ち上げたのがジェネシスホールディングスの藤岡淳一社長だ。IoTサービスなどを計画する日本企業からのデバイス製造を受注するビジネスを展開し、今期(2019年1月期)の売り上げは前期比倍増の30億円近くを見込んでいる。

日本企業からのIoTデバイスを受託製造するジェネシスHD

 2011年に創業したジェネシスホールディングスは、コンシューマー向け電子機器の受託製造サービス(EMS)としてスタートした。創業者の藤岡社長は量販店向けなどのノーブランド家電の企画から生産までを手掛けるデジタル家電系ベンチャー企業に勤めていたが、その企業が買収されたのを契機に退社し、中国・深センのマンション1室で起業した。

 とはいっても、資金はない。そこで、工場を持たないファブレスとして、「品質管理や検査代行など、ほそぼそとやろうと思っていた」(藤岡社長)。ところが、日本から小型液晶テレビや簡易チューナーの製造委託が数多く舞い込んできた。ちょうど、地デジへの切り替え時で、これらの商品が不足していたためだ。

 同社は受注拡大に対応するため、日本法人を2012年に設立した。だが、製造委託先を見つけるのがだんだんと大変になってきた。「尖閣諸島の問題などがあってか、日本企業の仕事を敬遠する傾向が見受けられた」(藤岡社長)。そこで、2013年に自前の工場を立ち上げた。液晶テレビやDVDプレーヤー、デジタルカメラなどコンシューマー製品の製造を請け負うが、「納品先の量販店に怒られるなど、次第にしんどくなってきた」(藤岡社長)。忙しいのに、調達する電子部品や材料の価格と為替など外的な要因が大きく影響し、赤字が続いてしまったからだろう。

 藤岡社長はコンシューマー向けビジネスからの撤退を決断した。日本の50人弱、中国の40人弱いた従業員の多くをリストラし、日本企業の傘下に入り、BtoB向けEMSとして再スタートすることにした。2014年のことだ。「深センのサプライチェーンに依存すれば、可能になると思った」(藤岡社長)からだ。受託するのは、例えば、タクシーに取り付けるカメラや広告表示装置、決済端末などといったIoTデバイスだ。最近はソースネクストのポケット翻訳機の製造も請け負う。

 飲食店やカラオケボックス、学習塾、マンションなど非製造業の顧客がIoTサービスに必要なデバイスを次々に発注してくる。深センにおける電子機器製造のサプライチェーンの良さが理解されてきたこともあるだろう。良さの一つは、スピードだ。互換性のある汎用の部品や基盤、ケースなどが数多くあり、それらを調達すれば、短時間に完成品を組み立てられる。日本なら半年や1年掛かるものが、3カ月程度で納品できるという。もう一つは、1000個単位の小ロット生産に対応できること。顧客は少ない予算で、必要なデバイスを調達し、IoTサービスを素早く開始できるというわけだ。

 「非製造業にとって、大きなメリットになる」(藤岡社長)。日本企業が直接、中国企業に発注するのはコミュニケーションなどの問題からもリスクがあるという。国内企業に委託するには、1万台以上のロット数を要求されるなどコスト高になる。在庫を抱えることにもなる。そこに、「日本っぽい、中国企業として、深センのいいとこ取りをした受託製造の黒子に徹する」(藤岡社長)同社の存在価値がある。

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