受託ソフト開発を展開するIT企業が、SI(システムインテグレーション)からサービス提供型への事業構造転換を進めている中で、JBCCが新しいSIモデル「データ業務ソリューション」構想を打ち出した。東上征司社長は2020年11月初旬の2020年度中間決算説明会で、「SIビジネスの在り方を変えるもの」と開発の狙いを説明する。同社で新しいSIモデルの開発などに取り組むSI事業部SIインベーション本部の金光剛右本部長に、データ業務ソリューションについて聞いた。
JBCC SI事業部SIインベーション本部の金光剛右本部長
データ業務ソリューションは、ユーザーと取引先との業務を電子化し、Amazon Web Services(AWS)やMicrosoft Azureなどのパブリッククラウド上でサービスとして活用するもの。月額料金で利用するので、SaaSのように見えるが、同社は少し異なるという。SaaSは、利用するユーザー全てが同じ機能を利用し、SaaSベンダーが3カ月に1回程度の割合で機能を強化したり、新しい機能を追加したりする。
対して、データ業務ソリューションは、ユーザーごとにカスタマイズしたサービスを提供する。しかも、マルチテナントではなく、セキュリティ対策や他サービス利用による影響を受けないように、ユーザーの専用サイトとユーザーの取引先に専用マイページを用意したという。
その第1弾が2020年10月末に提供を開始した納品・請求業務サービス「おまかせ請求」だ。ペーパーレス化できる請求書などを電子化し、ユーザーと取引先が共有する仕組みで、郵便局のレターパックに請求書や納品書、契約書、価格表、CADデータ、製品カタログといった書類を入れて送るようなイメージという。
つまり、おまかせ請求は請求書や納品書などを作成するものではないということ。基幹システムなどにある請求や納品などのデータをPDFやCSVの形式に変換し、それらファイルをクラウドに取り込み、ユーザーの取引先が専用マイページからログインし、いつでもどこでも請求書や納品書などを見たり、ダウンロードしたり、印刷したりする。ユーザーは、取引先がいつダウンロードしたかなども追跡できる。
だが、請求書などをPDF化し、メールで送る方法もある。その場合、取引先がメールを紛失したり、見ていなかったりすることがあれば、再発行の依頼など問い合わせへの対応が増えることになる。だから、おまかせ請求では、私書箱のように取引先ごとに専用マイページを用意したわけだ。
大きなメリットも幾つかある。1つは配送コストがかからないこと。請求書や納品書を印刷、封入、配送する費用が一切なくなる。2つ目は、請求書の再発行などの問い合わせ対応が少なくなること。取引先自身が確認できるからだ。結果、ユーザーと取引先のテレワーク化を支援するなど、取引先との接点強化にもなるという。
おまかせ請求の利用料金は月額36万6000円からになる。高いのか、安いのか。同社の試算によると、月5000件の請求書を送る場合、作業に当たる人件費(45時間×時間単価3000円)と、発送・印刷費(1枚当たり100円×5000件×1年間)の合計は年間約760万円になる。おまかせ請求の利用料金は年間約440万円なので、年間で3割超の削減になる。請求書だけではなく、納品書などへと適用業務を広げれば、削減費用はもっと大きくなるのだろう。ただし、初期費用90万円弱と、ユーザー自身によるPDF化など導入準備をする必要がある。
獲得したユーザーは発表から1カ月後の12月中旬で1社だという。料金設定に加えて、おまかせ請求のサービス内容がユーザーに正確に伝わっていないことにも原因があるように思える。
金光氏は「ローコード開発と当社独自のアジャイル開発で、ソフト部品を開発し、その部品の組み合わせで、ユーザーのニーズに応えるものにする」と、データ業務ソリューションの目指す方向を明かすとともに、JBCCやグループのJBサービス、CISなどが導入し、成功事例を作り上げて、サービス商品の品ぞろえを推進するという。請求書などのアウトバウンドから、取引先情報などインバウンドへと広げることも考えている。
「取引先がURLにアクセスすれば、請求書などをダウンロードできるだけでも、大きな進歩になる」と金光氏は主張するが、おまかせ請求は新しいSIモデル作りへ一歩踏み出したばかりだ。データ業務ソリューションの真価が発揮するのは、2021年に提供開始する新しいサービスになるだろう。
- 田中 克己
- IT産業ジャーナリスト
- 日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任、2010年1月からフリーのITジャーナリスト。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書は「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)。