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解説「ゼロトラスト」シフト--“境界”セキュリティの誕生と限界までの道のり

金子春信 (アカマイ・テクノロジーズ)

2019-02-15 06:00

 近年、ITセキュリティの世界で「ゼロトラスト」という言葉が頻繁に語られるようになった。「ゼロトラスト・セキュリティ」ないしは「ゼロトラスト・ネットワーク」とも表現される新たなセキュリティの考え方だ。それを実現するフレームワークや、実装するための機能を持つ製品なども多く発表されている。先行する米国では、RSA ConferenceやBlack Hatなど大規模なセキュリティカンファレンスで非常に多くのベンダーがゼロトラストという言葉を使っていることに驚く。これからは日本でもこれを取り入れる組織が増えるだろう。

 それは、このゼロトラストの考え方が現在のビジネス状況とそれを支えるITと通信(以下、ICT)基盤の状況に必要なものだからだ。今、ICT基盤が大きな変革期にある。ビジネスをデジタル化するために必要な、迅速性、柔軟性、偏在性を持った基盤が必要となっているのだ。つまり、ビジネス変革からICT基盤変革、そして、セキュリティ変革へという潮流の結果、現在必要になっているのがゼロトラストだ。本連載では、このゼロトラストが必要になっている背景と課題、実際に取り組んでいるユーザー、実現のアプローチを紹介する。今回は、この背景と課題について解説しよう。

ネットワークアーキテクチャの変化

 インターネットの前身である「ARPANET」に最初の4台のコンピュータシステムが接続されて以来、既に約50年もの月日が流れている。この技術は、初歩的なパケット交換ネットワークから、複雑で気の遠くなる数の自律システムへと進化し、データを必要とする場所で利用するために世界中で連携して動作している。

ハブ・アンド・スポーク型のアーキテクチャのイメージ
ハブ・アンド・スポーク型のアーキテクチャのイメージ

 それと同時に、こうした技術を悪用する脅威もまた進化している。ICT業界はこの10年間、DDoS(分散型サービス妨害)攻撃、何億もの人々に影響を及ぼすデータ漏えい、機密性の高い政府システムからのデータ流出、ランサムウェアの台頭など、数々の脅威を克服してきた。しかし、この期間に起こったどのような変化についても(良い変化でも悪い変化でも)、依然として変わらないままのものが一つある。それは、ほとんどの企業が利用する基本的な「ハブ・アンド・スポーク」型のアーキテクチャだ。

 このアーキテクチャは、以前は理にかなったものであった。1990年代、まだインターネットが事業やクラウドサービスで活気にあふれる前、企業はワークロードをデータセンターに配置していた。データセンターには、重要なIT基盤と、企業の業務遂行に必要なアプリケーションが格納されていた。そして支社、小売店、サテライト施設で業務がオンライン化すると、それらの場所から集約型アプリケーションに接続してきた。企業はこうした変化とニーズに対応するために、全てのネットワークバックホール(中継網)をデータセンターにつなげてネットワークを構築していた。そして最終的に、データセンターは全ての処理が集中する中心的な場所となったのだ。

 一方で時代の流れとともに、インターネットは商業的にあらゆることが実現可能な技術として浮上し始めた。1994年にNetscapeのエンジニアによってSSL(Secure Sockets Layer)が発明され、セキュアなオンライン商取引が可能になるとともに、企業では自社の業務にもインターネットの利用を取り入れたいと考えるようになった。

 当然ながら、複雑なグローバルネットワークを構築していた企業や通信事業者は、彼らの知識をフル活用して、こうした要求に応えた。つまり、それらの接続サービスを社内のアプリケーションがホストされているのと同じデータセンターに導入し、そこまでの経路を提供するためのインターネット接続をしたのだ。そうすることで、意図せずに2つの目的が果たされた。外部の顧客がネットワークに入れるようになっただけでなく、複数の支社に分散する従業員がネットワーク外に出て行けるようになったのだ。こうしてハブ・アンド・スポーク型は過去20年以上の間、ネットワークアーキテクチャの圧倒的主流であり続けた。

 しかし、サイバー攻撃者たちがこのアーキテクチャを利用し始めたことで、全く新しい“領域”が生まれた。データセンターのセキュリティスタックだ。

 ハブ・アンド・スポーク型アーキテクチャでは、各データセンターでインターネットトラフィックが一カ所に集約されるため、そのような大容量回線のための大規模で強力なセキュリティの枠組みが開発、導入された。ファイアウォール、IDS(侵入検知)、IPS(侵入防御)によってインバウンドトラフィックが制御され、セキュア・ウェブ・ゲートウェイがアウトバウンド方向のウェブトラフィックを制御するようになった。こうしたセキュリティシステムが普及し、ネットワークが集約されるポイントに関所のように展開されていくことで、ハブ・アンド・スポーク型はネットワークアーキテクチャにおける支配的地位をさらに強めていった。

 これは、企業内のネットワーク環境を“城”とするなら、城を囲うように“堀”を築いて守るという考え方だ。しばらくの間、セキュリティにおける「堀と城」のアプローチは存続可能に思われ、「ネットワーク外部の者は全て悪、内部の者は全て善である」というネットワーク境界の考えが支配的なままであった。

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