5GからAI処理までカバーするArmのプロセッサー戦略

渡邉利和

2019-04-11 06:00

 アームは4月4日、都内で報道機関向けの説明会「Japan Media Day」を開催した。同社のさまざまな事業に関する動向が紹介され、本稿ではクライアント向け製品戦略などについてレポートする。

アーム 代表取締役社長の内海弦氏
アーム 代表取締役社長の内海弦氏

 冒頭であいさつした代表取締役社長の内海弦氏は、同社が「プロセッサーの会社」であり、「年間200億くらいのarmアーキテクチャーのデバイスが出荷されている。これは推定で世界人口の3倍くらいの数に相当する」といった基本情報を紹介した。その上で、「通常プロセッサーはPC用、サーバー用といった形で用途ごとに分かれているが、単一のアーキテクチャーでIoT(モノのインターネット)向けのごく小さなデバイスからサーバー用までをカバーできのるはarmのプロセッサーだけ」だとし、同社のアーキテクチャーがこうした広範な支持を得ている理由として、「電力効率が高い」「セキュリティーが高い」という2点を挙げた。

 続いて、英Armマーケティング担当バイスプレジデントのIan Smythe氏が、コンシューマー分野での同社の取り組みを説明した。この分野の注目動向として同氏が挙げたのは、「5G」と「機械学習(Machine Learning:ML)」の2つだ。

Arm マーケティングプログラム担当バイスプレジデントのIan Smythe氏
Arm マーケティングプログラム担当バイスプレジデントのIan Smythe氏

 5Gネットワークは、2019年がまさにスタートの年と言え、今後サービスや端末がグローバルで展開されていくことになる。この市場に向けて同社では、中核製品である「Cortexプロセッサー」に特性の異なる3種類の製品を用意することで市場のニーズに応えている。それぞれ、パフォーマンスに特化した「Cortex-A」、応答性に特化した低遅延用途向けの「Cortex-R」、低消費電力の「Cortex-M」だ。端末から基地局、クラウド側まで、5Gを構成するシステムにはさまざまに異なる要件が存在し、それらに対応するためのバリエーション展開となっている。

「arm Cortex CPU」の3種のバリエーションと5Gでの適用領域(出典:Arm)
「arm Cortex CPU」の3種のバリエーションと5Gでの適用領域(出典:Arm)

 また、現在のデータ処理の主役とも言うべき人工知能(AI)関連処理の分野でも、同社は複数のソリューションの組み合わせでさまざまなニーズに対応しようとしている。

 まずハードウェアでは、CPU(CoretexおよびNeoverse)、GPU(Mali)、NPU(Machine Leaning Processor)の3種類のデバイスを用意する。さらに、これらのハードウェアの違いを抽象化するための共通化されたAPIを提供するソフトウェアレイヤーとして「arm NN」が提供される。また、「Arm v8.1」では新しいベクトル演算機能「Helium」が実装され、これもAI処理の高速化に寄与するという。

ArmがML領域向けに展開する3種のプロセッサーと、抽象化レイヤーとなるソフトウェア「arm NN」のソリューションスタック(出典:Arm)
ArmがML領域向けに展開する3種のプロセッサーと、抽象化レイヤーとなるソフトウェア「arm NN」のソリューションスタック(出典:Arm)

 Smythe氏は、同社のプロセッサーで顔認証処理を実行する場合のパフォーマンスの比較イメージを示し、「用途に応じて適切なソリューションを選ぶことで、処理性能と電力消費量を最適化できる」とした。

顔認証処理時の同社のプロセッサーごとのパフォーマンス比較。グラフの長さが処理完了に要する時間を示す(短い方が処理性能が高い)。現行製品ではCPUとGPUの性能差はさほど大きくはないようだが、次世代GPU(Mali-G76)では大幅な性能向上があるようだ。さらに、専用プロセッサーであるNPUがより高性能となる(出典:Arm)
顔認証処理時の同社のプロセッサーごとのパフォーマンス比較。グラフの長さが処理完了に要する時間を示す(短い方が処理性能が高い)。現行製品ではCPUとGPUの性能差はさほど大きくはないようだが、次世代GPU(Mali-G76)では大幅な性能向上があるようだ。さらに、専用プロセッサーであるNPUがより高性能となる(出典:Arm)

 最後に、今後のクライアント向けプロセッサーのロードマップについては、現行の「Cortex-A76」の後継となる「Deimos」が7ナノメートル(nm)プロセスで2019年内に投入される予定となっている。次の「Hercules(7nmおよび5nmプロセス)」は、2020年に予定されている。

これら次世代プロセッサーのパフォーマンスの見通しについては、PC用プロセッサーとして大きなシェアを維持するIntel製品との比較を示し、5nmプロセスのHerculesでは2016年のCortex-A73(16nm)の2.5倍の性能を実現し、性能面では伸び悩んでいる感のあるIntel Core i5シリーズを追い越すとしている。

CPU(Cortex-Aシリーズ)のロードマップとパフォーマンス予測。2019年内に予定される「Deimos 7nm」でIntel Core i5-7300Uの性能を超すという(出典:Arm)
CPU(Cortex-Aシリーズ)のロードマップとパフォーマンス予測。2019年内に予定される「Deimos 7nm」でIntel Core i5-7300Uの性能を超すという(出典:Arm)

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