ここ数年、指紋や顔認証などの生体認証技術が幅広く活用されている。その用途としては、支払いや空港での荷物のチェックイン、航空機への搭乗などさまざまだ。こうした技術は、ユーザー認証体験をシンプルにするものではあるが、同時に生体認証データの収集や保存に関するプライバシーの課題も新たに生まれている。
米国では、生体認証データへの高まる懸念に対し、州の規制当局が法律を制定したり提案したりするなどして対応している。最初にこうした法案を成立させたのはイリノイ州で、2008年に生体認証情報プライバシー法(BIPA:Biometric Information Privacy Act)を制定している。BIPAは、民間組織における生体認証データの収集方法や利用方法、保存方法を規制するもので、生体認証データの誤用によって被害を受けた場合は、個人が組織を訴えることも可能となっている。
BIPAは約10年前に制定された法律だが、2019年1月、Rosenbach対Six Flagsのイリノイ州最高裁判所での判決を受け、最近再注目されるようになった。この裁判では、ある未成年児の両親がイリノイ州ガーネルの遊園地、Six Flags Great Americaを訴え、同意なしに生体認証データを収集するのはBIPA違反だと主張した。ちなみに、個人のチケットをスキャンした後に回転ゲートで生体認証のスキャンを求める遊園地は増加傾向にある。このプロセスは主に不正防止対策として行われており、チケットやパスを紛失しても、生体認証データを顧客サービスカウンターにて提供すれば新しいチケットやパスが入手できるようになっている。こうすることで、無料パスをなくしたと主張して新しいパスを入手しようとする不正人物の削減につながっている。
イリノイ州最高裁判所は、下級裁判所の判決を覆し、Six FlagsがBIPAを侵害したとの判決を下した。重要なのは、原告側が生体認証の収集による損傷や被害(個人情報の盗難など)を示す必要はないとイリノイ州最高裁判所が判断したことだ。BIPAでは、生体認証データを不適切に収集しただけで、個人の消費者が組織を訴えることが可能だということになる。
この判決は、消費者やプライバシー権利にとっての勝利といえよう。また、今後BIPAに対する法的対決の増加にもつながり、裁判制度を通じた動きもすでに数多い。見逃せないのは、現在サンフランシスコの第9巡回控訴裁判所にて審査中のPatel対Facebookの訴訟で、Facebookが同サイト上にアップロードした顔写真をタグ付けすることに対して争っている。
マサチューセッツ州、ニューヨーク州、ミシガン州でもBIPAと同様の義務を課すプライバシー法案を策定中で、他の州でも生体認証データの収集、利用、保存を規定する法律を考案することが見込まれる。
こうした動きはあるものの、それが生体認証の滅亡につながるわけではない。これは単に、生体認証データの収集を検討している組織であれば、プライバシー前提の設計アプローチを遵守すべきであるということだ。また、適切な開示と同意、オプトアウトの要件を提供するとともに、複雑化する法的環境にも注意を払い、生体認証データの収集や保持に関しては新たな法律に準拠していることを確認しておくべきだろう。
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。